ゴールデンの咬傷事故はどうして起こったのか?

史嶋桂

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飼い犬が乳児を咬み殺すという痛ましい事故が起こって1週間が経過した。犬は家庭犬として被害者の祖父母が飼っていたゴールデン・リトリーバーだった。この件は既に藤田りか子さんが記事として公開されているので、僕も記事を書いたものの、公開するかどうか迷った。だがこうした痛ましい事故を繰り返さないためにも、公開された情報から事故の原因を探り、警告の意味を含めて情報公開すべきと考えた。そのため、今まで公開された情報から分かったこと、既存の知見から推論可能なことをまとめて記事にすることにした。

2017年3月9日、午後4時半ごろ、東京都八王子市の自宅リビングの床で祖父母と女児が遊んでいたところ、祖父母の飼い犬のゴールデン・リトリーバー4歳牡37kgが突然女児の頭に咬みついた。生後10カ月の女児は出血を伴う外傷を負い救急搬送されたが搬送先の病院で死亡が確認された。

この第一報のあと、少しずつ事故の詳細な情報がわかり始めている。

この事故では、女児はリビングの床をハイハイしていて、祖母の目の前わずか1mほどの距離で突然犬に襲われたことがわかった。

つまりこの事故は乳児と大型犬を一緒にして放置した状況で起こったのではない。

家族の団欒の場であるリビングで、祖母の目の前で飼い犬が彼女の孫に咬みついたというショッキングな事故だったのだ。

なぜこのような事故が起こってしまったのか?

こうした事故が起こると必ず取り上げられるのが犬種と言う話題だ。だが僕は犬種と言う概念で犬の危険性を決めつけるのはおかしいと思う。今回のような事故はどんな犬でも起こりうると感じるからだ。

事故の当事者となったのはゴールデン・リトリーバーと言うガンドッグだ。獲物回収犬として育種された犬だが、その出自はあまり良く分かっていない。警察犬指定犬種だが日本に入っているのはショードッグ・ブリードが多いと思われ、長い絹のような金色の美しい被毛と、垂れ耳、箱口で温和に見える犬が多い。

ただし温和に見える外観に反して、僕は全ての犬が大人しいとは思わない。こちらの記事のコメント欄でも、咬み癖があるゴールデンの相談を再三受けているし、前の家の近所にも、散歩のたびにうちの犬に猛然と吠え掛かってくる牝がいた。あるドッグランでは、他の犬に対して攻撃的に振舞うゴールデンの牡も見ている。僕がラブラドル犬を飼っていた時には、こちらのリトリーブ訓練中にずっと威嚇の吠え声を上げ続けていた牝犬にも会っている。

個人的な経験から言えば、ゴールデン・リトリーバーは外観から感じるほど穏やかな犬ばかりではないと思う。これはどの犬種でも言えることであり、この犬種だから安全、あるいはこの犬種は危険と言うのは、人間の思い込みに過ぎないと思う。むしろゴールデンの場合は穏やかな外観から犬の本質を見誤ることの方が問題に思える。これは可愛い外観なのに凶暴な犬がいるジャックラッセルテリアでも言えることだ。

そもそも僕は犬を咬む動物だという認識を持って50年以上付き合ってきた。その事は繰り返し記事の中で述べてきたつもりだ。

そしてゴールデンだけでなく、犬と言う動物は、幼少時からあらゆる年齢・人種・性別の人間と、数多くの犬と直に触れ合う機会を設け、社会化を徹底し、飼い主が犬の上位者=親代わりの地位を確立して飼うべきものだと僕は考えている。

特に大型犬や、中小型犬でも攻撃力が強く身体能力が高い犬は、それらの能力が人間や他の家畜にむやみに向けられないように飼い主が訓練を通じて社会化を行い、きちんと制御できるようにして飼うべきだと考えている。これらのことも今までの記事の中で様々な側面から繰り返し述べてきたつもりだ。

犬と言う生き物は、先史時代から生態系の頂点を占めていた狼と言う肉食獣を、原始時代の人間が家畜化した生き物だ。肉食動物なので、獲物を殺して食べることができる長く鋭い犬歯と、肉や骨を噛み砕く裂肉歯と、それを支える強力な顎を持っている。そんな危険な自前の武器を持っている動物と、人類が数万年と言う長い間友好関係を結んでこられたのは、犬が持つ高い社会性と攻撃抑制があったからだ。

高い社会性を持つ狼は、身内として社会化された相手を攻撃の対象からはずす。特に狼では群れで協力して自分より大柄な獲物を倒すように行動まで進化させてきた。だから猟の仲間である群れのメンバーへの本気の攻撃が起きにくいように、身内への攻撃抑制も進化させてきたわけだ。

なぜなら獲物を殺傷し得る強力な武器で、身内同士頻繁に争っていたら、メンバーに死傷者が続出し、群れで協力して獲物を狩ることが不可能になってしまうからだ。同じ理由で狼は反撃を受ける可能性がある獲物には慎重になる。彼らは群れのメンバーの安全まで考えて狩りを行うのだ。

ただし狼は同種であっても、他の群れの狼は攻撃対象となりうる。また順位闘争でも真剣な攻撃が交わされる。例外は単独になった雌雄が繁殖期に出合った時くらいだろう。

狼の子孫である犬の攻撃抑制は祖先の狼から引き継いだものなので、同じように犬が身内・家族・仲間・知り合いと認識した相手に対して発揮される。つまり攻撃されない相手は、範囲の大小はあれ限定されている。それ以外は犬自身の応用力による。幼時から幅広い相手に社会化された犬は、既に社会化された相手と類似の相手もとりあえずは身内扱いとして攻撃対象からはずしてくれるのだ。

こうした犬本来の攻撃能力とセットになった攻撃抑制と言う性質を踏まえ、現時点までの情報から、今回の事故の原因を探ると、女児と言う存在が攻撃抑制の対象外だった可能性が浮かんでくる。犬から見ると、攻撃抑制の対象である身内以外の生き物は、仮想敵か獲物と見なされてしまうことは否定できない。

例えば以前僕が飼っていたラブラドル犬は、盲導犬血統の普段は穏やかな牝犬だったが、東北のある湖で半矢のカモを何羽も仕留めて持ち帰ったことがあった。これは僕の命令なしに行われ、しかも僕はその行動を制止出来無かった。狩猟訓練など受けたことのないラブラドル犬だったが、岸辺の薮に隠れているカモを見つけたとたん育種によって強化された本能が爆発した感じだった。彼女は半矢のカモを自分が狩るべき獲物と認識した。だから本能の命ずるまま半ば自動的に狩りが始まってしまったのだ。

その行動は今回事故を起こしたゴールデンと本質的に変わらないようにも思える。敢えて厳しい見方をすると、違ったのは対象がカモか人間の子供かと言う部分だけに思えるのだ。

背景事情を含め事故の情報を細かくみてみると、気になる点がいくつかあった。

まず犬は祖父母の飼い犬で、被害者の女児の家族とは同居していない。つまり女児は飼い主家族という群れに加わった子とはみなされない可能性が高い。

さらに当日は女児が保育園で発熱したために、保育園に預けておけず、たまたまかわりに祖父母が女児を預かっていたという。

これらのことから考えうるのは、犬から見て女児はよその群れの子供でありまだ社会化されていない相手、身内と認識されていない存在であった可能性が考えられる。もっと言ってしまえば、犬から見て女児は飼い主と同じ人間ではなく獲物のように感じられた可能性もある。

また犬が牡であることから、牝犬が人間の子供にしばしば抱くキュートレスポンスによる愛着も薄かったことだろう。

さらに祖父母が飼っていたゴールデンと言う犬種からの想像であるが、普段から祖父母によってとても可愛がられていたことは想像に難くない。そこにもっと祖父母が可愛がる彼らの孫と言う存在が連れてこられた。女児は今までも何度か祖父母宅に連れてこられていたが、近頃ハイハイを始めたばかりだという。おそらく犬の目前で孫を巡って、毎回女児を大歓迎するような振る舞いが繰り返し見られたのではないだろうか?

犬からしたら今まで自分が独占していた飼い主の愛情が、自分ではなく女児にむけられたと感じられた可能性もあるだろう。また事故が起こったのは普段犬が起居しているリビングだ。飼い主による犬に対する順位付けが不十分なら、リビングが犬の縄張りとみなされていた可能性もある。

そうした背景事情により飼い主が犬よりもっと可愛がるようになった女児に嫉妬して、犬が女児を排除しようとしたと言う可能性も否定できない。

ここまでが現時点までに得られた情報から僕が考えうる事故の原因と思われることがらだ。

僕は今回の事件のニュースを見たとき、子供の親として、長年犬を飼い続けていた飼い主として、幼時から犬まみれで育った人間として、なんとも表現しようのない嫌な気分になった。僕自身ハイハイを始める前から、家で飼われていたドイツシェパードやドーベルマンやボクサーとくんずほぐれつして育った人間だったからだ。当時家にいたのは軍用犬崩れみたいな強面のする連中ばかりだった。だが僕は傷一つ負わず、家族と言う群れに生まれた子供として、犬に育てられたような人間だ。なぜ僕は無事だったのに女児は亡くなったのか?それがこの記事を書く動機になっている。

今回の件は犬と言う動物に対する理解不足と不幸な偶然が積み重なって起こった事故だと思う。だが家庭犬の心理やサインをきちんと把握できる人間がいれば、避けられた事故ではなかったかと言う想いをとめることが出来無かった。

最後に読者の方々にお願いがあります。

この記事を読んだ方で、僕が掴んでいる以上の情報をお持ちの方、もっと他の原因もありそうだと思われる方は是非コメントしていただきたいです。なぜなら今回のような痛ましい事故が再び起こらないようにするには情報を蓄積して、対策を様々な側面から考え続けることが重要だと考えるからです。

参考にしたサイトは以下の通りです。
時事ドットコム
産経ニュース
ライブドアニュース
日刊ゲンダイ

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