散歩を甘く見てはいけない

史嶋桂

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僕の身の回りにも犬と行く散歩をあまりに安易に続けた結果、犬の信頼を失い、飼い主と言うより単なる給餌係になってしまっている飼い主がいる。そうなってしまえば犬は飼い主を下に見て、言うことを聞かないだけでなく、飼い主が気に食わないことすれば牙をむくようになることもある。最悪の場合飼い主は何かのきっかけで飼育を放棄しかねない。犬がそうなったのは飼い主のせいなのに 「飼いきれなくなったから犬を捨てるしかない」 と考えてしまうのだ。そうならないためにはどうすればよいのだろう。

個人的な考えだが、人間は本来プライドがあるので、自分の飼い犬より下の立場で犬と暮らすことは避けたいと思うはずだ。すくなくとも僕はそうだ。しかし日本人の犬の飼い主の中にはことのほか優しい人がいて、犬と対等の立場で付き合いたいと言うひともいる。そういう人は犬に命令すると言い方さえ嫌う。たまたま犬の方が穏やかな性格で、飼い主の愛情を一身に受けて、犬の方から飼い主に寄り添ってくれれば大きな問題は起きない。

しかし全ての犬がそういう良く出来た犬ばかりではない。例えば我が家のマイロは齢11歳になろうというのに、未だに家族の誰彼に挑戦をすることをやめない。なぜ、そういう犬がいるのか?

まず犬という動物は家畜化の過程で狼ほど強い階級意識は持たなくなったといわれる。しかし犬にも狼から引き継いだ性質が残っている。それは身内の犬と人、犬と犬の間に対立関係が生じた時、相手より自分が上か下かと言う認識によって、相手に従うか、従わせるか、と言う選択をしがちなことだ。

自分が群れの下っ端だと感じる犬は対人では飼いやすい。しかし社会化不十分だとよその犬を必要以上に怖がるようになる。マイロはその逆であらゆる犬と対等以上に付き合おうとする上、すべての人は自分に興味を持ち構うべきだと考えているようだ。こうした犬が社会化不足だと、自分の意思を通すために躊躇なく相手を攻撃するようにもなることだってある。

幸か不幸か犬は家畜化と前後して、ネオテニー(幼体成熟)が起こっているので通常は攻撃性は低い。犬は狼に較べると子供っぽい体つきや顔つきに変わっているし、祖先系の狼より小さな体、短くなったマズルと牙、時には脚や体毛も短くなっている。

性格も変化している。犬も狼も成長の過程で社会化期を持つが、狼の場合、社会化の窓は犬より早く開き、早く閉じてしまう。

一方犬の多くは社会化期がオオカミより長く続き、そして性成熟を過ぎたあとも一定以上社会化のやり直しが可能な柔軟さが残る。つまり普通の犬は社会化や訓練を受け入れる期間が長い=やり直しがきく。

こうしたことから、僕はイエイヌ=現代の犬という家畜を、一生大人にならない狼のような生き物と考えて付き合うようにしている。

その犬と人間の付き合いで、もっとも重要な行動のひとつが毎日の散歩だ。

散歩と言う行為は、人間から見ると運動不足の解消や気晴らしと言う側面が強いと思う。日本なら四季折々の草花や、町並みや自然の風景を愛でながらは散歩を楽しむだろう。一方人間とは大きく異なる五感でこの世に暮らしている犬にとって、散歩は人間が考えるよりずっと重要な行為なのだ。

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なぜなら散歩と言う行動は犬にとって、祖先の狼が行っていた「縄張りの見回り」あるいは「狩猟に向かう道程」に他ならないからだ。だから社会性のある肉食獣である犬にとって、散歩はもっとも大切な行動のひとつであり、そこで飼い主がリーダーシップを発揮できていれば、犬は自然に飼い主を上位者=自分の義理の親と認め尊敬するようになると僕は考える。

そして散歩から帰って、犬に食事を与える行為は、実際には行われなかった狩猟の分け前を、犬の親たる飼い主が子である犬に分け与える行為と見なせるだろう。犬は散歩と言う狩猟運動で腹が減っているから散歩後の食事を猟の分け前として喜んで食べることになる。

だが現実はなかなかそううまくはいかない。もしあなたが飼っている犬が牡犬か、その地域でそれなりの地位にいる犬なら、彼らは散歩に出た瞬間から、すぐに回りの匂いを気にし始めるだろう。もし自分の家の門柱に他の犬のマーキングの匂いを嗅ぎつけたなら、すぐに自分も脚を上げてより高い位置にマーキングしようとするだろう。

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そこで飼い主が制御しなければ、あなたの犬は先にたってグイグイとリードを引いて歩き出す。地面の匂い、電信柱や塀の匂いを丹念に嗅ぎまわり、よそ者のマーキング跡を見つければ、丹念に上書きするように自分もマーキングを繰り返す。

そんな風に散歩の間中、自分の飼い犬まかせで、飼い主が後からついて行く散歩を続けていると、犬の意識の中で飼い主の存在は徐々に低く小さくなってしまう。なぜなら夢中で他の犬の臭跡をたどる犬の関心事は 「他の犬のマーキングを見つけ、吟味し、自分と同等か下の相手なら、全て上書きせねばならない」 と言う嗅覚によって縄張りを維持しようとする犬の本能に支配されてしまうからだ。

それでもあなたの犬が、幼時より他の犬や人と十分な社会化を繰り返した犬で、隣近所の犬たちとの関係性も良好なら、こうした犬本来の行動も大きな問題にはならない。

例えば下の写真で穏やかに挨拶を交わしている犬たち全員がハーフチョーカー首輪で散歩しているのは偶然ではない。飼い主が犬を制御しようと意識して散歩している犬は、子供の狼の性質のままに飼い主に従って散歩できるようになる。その結果、犬種によらず穏やかな性質を維持しやすいのだ。

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しかし、散歩を始めたのが生後4ヶ月過ぎで、そのせいで社会化が不十分なまま大人犬になり、よその犬ともあまり仲良くできない怖がりの犬だと・・・時としてあなたの犬は散歩の途中ですれ違う他の犬に咬みつかんばかりに吠え掛かり、飼い主はよその犬とすれ違うたびに神経をすり減らしてしまうことになる。

さらにあなたの犬が中型犬以上のプリミティブドッグで、引っ張り癖があって首輪だと苦しそうだからと胴輪と伸びるリードで散歩を続けていれば、であいがしらに同じような犬と喧嘩になってしまい、最悪流血の事態を招く可能性も否定できない。

もし犬が飼い主であるあなたを、自分が守るべき自分より下の存在と捉えていれば、犬は自分が怖いと感じる相手全てに吠え掛かり威嚇して、敵からあなたを守ろうとさえするようになる。こうした問題行動の全ては、飼い主が続けた不適切な散歩が原因で起こるのだ。

そんな風に、犬と言う生き物は、どんなに可愛い外観であっても、鋭い牙と強い顎を持ち、さらに対面する相手に対して上下意識を持つ社会的な肉食動物であることを忘れてはならない。

では犬との散歩で、そうしたトラブルに陥らないようにするにはどうすれば良いのか?

僕が今まで飼ってきた大小さまざまな犬に行ったことで常に有効だったのは、飼っている犬、または預かっている犬に対し、飼い主であり訓練手である僕が、常に上位者として振舞い続けるということだった。

犬を散歩に出したら、まず室内での排泄を我慢してたまった尿と糞を、他人の迷惑にならない場所で排泄させる。室内飼いの犬ほど、排泄が終わるまでそわそわし続けるからだ。それはオシッコを我慢している幼児がちゃんと歩けない様子と同じに見える。

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街路樹の根元で排尿させ、水をかけて地面にしみこませれば、犬の尿は窒素肥料のかわりにもなる。糞はすぐに取り片付ける。日本の市街地には犬の糞を片付けてくれる十分な糞虫も掃除人もいないからだ。路樹がない場所では下水の排水口の上で排尿させ水をかけて流しておく。さらに犬が行う匂い取りもマーキングも全て飼い主が指定した場所で行わせ、排泄は水で流しておく。

散歩の間中基本的に脚側歩行を犬に義務付ける。

「私が先に歩くからあなたはツイテきなさい」

と言う主張を、散歩の間中飼い主が続ける。

もちろん他の犬と出会ったら、相手が拒否しない限り、毎回立ち止まってにこやかに挨拶を交わす。これも重要だ。

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そういう散歩を毎日続ければ、犬は彼らの持つ上下意識に基づき、散歩の間中自分をリードして歩く飼い主を尊敬するようになる。

すぐには出来なくても、行き先を決め、犬が前に出れば毎回脚側に戻そうとする飼い主なら、少なくとも犬は上位として振舞おうとしている犬(同族)として認めてくれるようにはなる。あなたが犬の親の代わりになれるかどうかは忍耐と創意工夫によって決まることだろう。

反対に犬に常時先行を許し、犬の好き勝手な場所でマーキングや排泄をさせる飼い主は、大袈裟に言えば 「あなたがボスなのだから先に歩いて好きな場所でマーキングしなさい」 と促しているようなものだ。

散歩の折り返し地点など、多数の犬のサインポストになっている場所があったら、飼い主主導で匂いとりをさせ、マーキング後はやはり水をかけて洗い流しておく。犬の飼い主は犬の尿の匂いを嗅ぎなれているから、多少の尿臭も気にならないが、犬を飼っていない人にとって多数の犬がマーキングを繰り返す場所の悪臭ははた迷惑なだけだからだ。

ちなみに僕がなぜこんなに犬のマーキングにこだわるかというと、もう50年以上東京と言う都市部で犬を飼い続けているからだ。たとえば東京23区の区立公園の多くは「犬の散歩禁止」だ。これは多数の犬を連れた飼い主が公園に散歩にやってきて、あちこちにマーキングや糞の放置を繰り返したせいだという。犬の飼い主を続ける以上、犬を飼っていない人が感じる不快感にも十分配慮して散歩するのは当前だと僕は思う。

犬のマーキングは自然な欲求だから叶えてやりたいという気持ちもある。しかし多数の犬と人が暮らす都市部でそれをすべて許してしまえば、当然しっぺ返しをくらうことになる。家の近所だと目黒不動尊はとうとう犬をふくむペットの連れ込みが全面禁止になってしまった。日本は犬猫の飼養数が15歳以下の子供を上回るペット大国だ。そう犬の絶対数がともかく多いのだ。

いずれにしても、犬と飼い主が行く散歩は、飼い主が感じる以上に犬にとって重要な行動なのだ。幼時から飼い主が出かけるあらゆる場所に犬を連れて行き、どこでも同じように犬の訓練を続けていけば、犬は幅広い環境に社会化され、どんな場所でもものおじなく礼儀正しく振舞えるようになる。

飼い主はその事を良く認識し、犬と行く散歩を、彼らとの関係を構築するまたとない機会と捉え、さらに問題行動改善の好機として役立てるべきだと僕は考えるわけだ。

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