一つのご褒美に執着するなかれ!

藤田りか子

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トレーニングクラスに出るたびに、最初にインストラクターから聞かれるのがこの質問である。

「ご褒美使ってトレーニングをしていますか?」

大抵誰もが「はい!」と元気よく答える。そして次の質問

「ご褒美、犬は本当に喜んでいると思いますか?」

で、幾人かはやや考え込む。さらに次の質問で皆、かなり黙り出す。

「ご褒美、毎回同じものを与えていたりしますか?」

犬が絶対に喜ぶ「これ!」というご褒美、飼い主なら必ず把握していると思う。ある人はボール、ある人は特定のジャーキーなど。その効き目があまりにも良すぎて、つい乱用してしまうことも、しばしばだ。その落とし穴は、犬はそのうち最初の頃ほど有り難がらなくなるということ。毎回美味しそうに食べている(遊んでいる)ようにも思えるが、よく観察すると実は喜びは半減していたりする。だからインストラクターの質問

「ご褒美、犬は本当に喜んでいると思いますか?」

については、我々飼い主はよく反芻しながら考えなければならない。私たちは犬が本当に喜んでいるか、いないか御構い無しに「ご褒美をあげる」という行為をほとんど儀式的にやっていたりする..。しかし喜んでいなければ、ご褒美にはならない。この根本のところが意外に忘れられがちだ。

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Mさんは私の犬トレーニング仲間の一人であるが、大きな「おもちゃ袋」なるものを車に積んでトレーニングにやってくる。その中には、様々なボール、そして色、大きさの違うフリスビーやぬいぐるみなどが入っている。何で同じようなボールやフリスビーをいくつも持っているの、と言う質問にMさんは

「フリスビーは、私の愛犬にとっては最高のご褒美なのだけど、だからこそ同じものを何度もあげることができないのよ」

それで、様々な大きさや色を用意しているのだそうだ。

「でも、色だなんて、犬ってほとんど色盲だから意味ないんじゃないの?」

と聞くと、

「と思うでしょ?冗談みたいかもしれないけれど、結構色の違いも犬にとっては『これは新しいものだね』って言う認識につながるんじゃないかと思って」

ボールについても同様で、あるものはゴム製だったり布製、あるものはピーピー音がなるタイプ、ギザギザがついている、etc.。犬にとって目新しければ、その新しさ、そのものもご褒美になる、とMさんは考えている。

そのMさんと先日トラッキング(足跡追求)の練習をおこなった。犬が正しい足跡を嗅ぎ分けた瞬間、ご褒美を与える、というふうにトレーニングを行なっていた。私はご褒美として毎回同じテニスボールを投げていたのだが、するとMさんは見かねたように私のところにやってきた。そして着ていたジャケットのポケットにさらなるボールを二つほど押し込んでくれた。一つはフニャフニャのゴムボール、もう一つは音がなるゴムボール。

「三つのボールのうちどれが一番好きか、愛犬の反応を見て。そしてもっとも気に入ったやつを、一番上手にトラッキングをこなした瞬間に投げてごらん」

いくつか違うボールを持っていることの面白さに私が味をしめたのはこの時である。つまりトラッキングをしながら、「まぁまぁの出来、でもよくこなしたね」をねぎらう時は、一番大好きなボールではなく2番目ぐらいのボールを投げる。その次にやってくる褒める機会にも、別の「2番目」ボールを投げる。そして最後の上出来の時にお気に入りのボール。こうすることで、犬を飽きさせずにかつテンポよく毎回褒めてあげることができた。犬だって、毎回違うボールがやってくることに楽しさを覚えているに違いない!だから余計にトレーニングが楽しくなる。

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Mさんのご褒美袋。様々な色、タイプのフリスビーとボールがいっぱい!

「まさか犬に目新しさが面白い、なんて言う感情があるわけない!」

なんて思うなかれ。ほぼ10年前に学術的にも証明されている。犬にとって目新しいものとそうではないおもちゃを並べ、どちらを先にとるか、と言う実験だ。50回のテスト中38回、見たことのないおもちゃを犬は選んだ。もっとも犬の性格にもよると思うが、しかし決して「目新しさ」の価値をなおざりにしてはいけない、ということを証明してくれたのではないだろうか。

そしてMさんの名言。

「犬へのご褒美って人にとっての「お気に入りの音楽」って思えばいいのよ。ほら、私たちにもお気に入りのミュージックってあるじゃない。で、それを何度も聞きたがるわけだけど、あまりにも流し続けられていると、ある日その音楽を聞くことにそれほど快感を覚えなくなる。犬のご褒美もそれと同じ。同じものを与えすぎると、ご褒美の価値が下がってしまうのよ」

トレーニングのマンネリ化に辟易するのは、犬だけではない。ハンドラーについてもしかりだ。しかしボールのバリエーションを増やすことに意義があることを知って以来、私はペットショップに行ってボールを色々と買い漁り始めるようになった。考えてみるとこのショッピングの行為については飼い主にとっての楽しみなのかもしれない。犬にとってもよし、飼い主にとってもよし、さらにペットショップの売り上げにもつながる。いいことずくめだ。

【参考サイト】
NCBI

 

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