犬のゲノム研究が明らかにしてきたこと(23)-サルデーニャ島に移り住んだ人々と歴史を共にしてきた犬、Fonni's Dog

尾形聡子

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[photo from ScienceDaily]

世界的な長寿の島として知られているイタリアのサルデーニャ島。シチリア島に次いで地中海で2番目に大きいこの島は、イタリア半島の西側に位置しています。そんなサルデーニャ島には古くから、家畜を守る牧畜犬フォニス・ドッグ(Fonni's Dog)とよばれる固有の犬が存在し、サルデーニャの人々共に生活を続けてきています。

フォニス・ドッグとは?

私自身、この研究を目にするまでフォニス・ドッグという犬種について、何も知らないどころか名前を聞いたことすらありませんでした。フォニス・ドッグ(Fonni's Dog)は、Cane Fonnese 、Pastore Fonnese、Sardinian Shepherd Dog などとも呼ばれているようですが、参考文献の中ではFonni's Dogと使われていましたので、ここではそのままカタカナに直してフォニス・ドッグ呼んでいきます。

現時点でフォニス・ドッグは FCI などの団体では犬種として公認されていません。母国イタリアのイタリアン・ケネル・クラブで、数年前にようやく犬種として正式に認められたというくらいですから、非常に限られた地域だけに存在している犬種であろうことが容易に想像できます。そのため、フォニス・ドッグを犬種として国際的に認めてもらおうと、保存にいそしむ熱心なブリーダーたちにより ASSOCIAZIONE AMATORI CANE FONNESE という団体が作られ、活動が続けられているそうです。

現在、世界的に認められているイタリアを原産とする犬種には、イタリアン・グレーハウンド、マルチーズ、カーネ・コルソ、スピノーネ・イタリアーノ、ブラッコ・イタリアーノなどがいますが、イタリアにはフォニス・ドッグのほかにも Mastino AbruzzeseLevriero Meridionale といった、簡単にカタカナにすることもできないような、在来種的な犬種がまだ存在しているそうです。

フォニス・ドッグは、サルデーニャ島の真ん中あたりに位置するフォンニという町を取り巻く地域で誕生した大型犬です。毛質はラフとスムースがあり、毛色は様々。しかし共通した特徴として、きりっとした表情を持ち、家畜を守る行動や見知らぬ人への警戒心と慎重さを備えていることが挙げられます。島という環境は大陸と異なり、他の集団と物理的に隔離されていること、そして旅行者などに別の犬種を持ち込まれることもほとんどなかったため、サルデーニャ島で生きてきたフォニス・ドッグはサルデーニャ島という隔離された集団の中で繁殖が続けられてきました。

フォニス・ドッグのゲノム研究

では、フォニス・ドッグはいったいどこからどうやってサルデーニャ島までやってきたのでしょうか。

アメリカとイタリアの研究チームは、フォニス・ドッグの歴史を遺伝子から探るべく、フォニス・ドッグの全ゲノム配列を解読しました。さらに、フォニス・ドッグのDNAと、イタリアから地理的に近くそして歴史的にもかかわりのある、ヨーロッパ、中東、北アフリカを原産国とする27犬種のDNAとを比較しました。

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[image & photo from Dreger et al. 2016 DOI: 10.1534/genetics.116.19242]
この研究でゲノムを比較した犬たち(上)と、スムースコートの個体とラフコートの個体(下)。

その結果、フォニス・ドッグに特徴的な11の遺伝子領域が存在していることがわかり、DNAの比較解析から遺伝的にほかの犬種とは異なる特徴を持ち、一つの犬種として確立されていることが明らかにされました。

フォニス・ドッグの毛色や毛の長さは十人十色です。なので、外見的な均一性だけをみれば、ある意味管理された繁殖が行われてきたわけではありません。しかし、見た目は気にしなくとも、しっかりと家畜を守る仕事ができ、飼い主にとても忠実であることを何よりも重要視した繁殖がきちんと続けられてきたからこそ、遺伝子レベルで見ても犬種として確立されたのだろうと研究者はいっています。そしてフォニス・ドッグに特徴的な11の遺伝子領域には、長年にわたり大切にされてきた、フォニス・ドッグとしての作業能力や気質と関連する遺伝子が存在しているだろうと研究者たちは想定しているようです。

また、フォニス・ドッグがひとつの犬種としての特異的なDNAを持っているだけでなく、その祖先が、中東原産のサイトハウンドのサルーキーとハンガリーの牧畜犬コモンドールの両者と関係があっただろうことも明らかにされました。

余談になりますが、フォニス・ドッグは『コソ泥』としても活躍できる能力の持ち主だそう。現在社会ではもはや必要とされない仕事ですが、1800年代中頃の書物には、フォニス・ドッグが隣の家から物をこっそりと盗んでくるのも彼らの仕事のひとつであった、ということが記されているそうです。

このように、ゲノムをつぶさに解析することは、その種の過去の歴史の中での移動の経路を知ることにもつながります。そもそもサルデーニャ島に住んでいる人々の起源については謎めいているようで、先史時代にヌラーゲ人とよばれる民族がサルデーニャ島に上陸したのが始まりだろうと考えられているようです。しかし近年、遺伝学的アプローチからの研究が進められ、現在のサルデーニャ人のゲノムにはハンガリー、イスラエル、ヨルダン、そしてエジプトの人々と大きな類似性が見られることが示されました。つまり、サルデーニャ島へ渡った人々とフォニス・ドッグは、島に移住するまでの道のりも共に歩んできた可能性があることが、ゲノム解析により示されたのです。

これまで、サルデーニャ人がなぜ長寿であるかを知るためにさまざまな研究が行われ、遺伝的な特徴があるといわれたり、食べ物や環境との関連性が強いとの研究結果が出されたりしています。島に暮らし始めるまでの道のりはどのようなものだったのかは明らかにされていませんが、島へ至るまでの道のり、そして定住地として選んだ島で先祖代々現在に至るまで、 島という遺伝的に閉鎖しやすい集団の中で暮らし続けてきたのは事実でしょう。

そして、閉鎖しやすい集団の中で子孫を残してきたならば、その生物の遺伝的多様性はけっして高くはないはずです。ですので、もしかしたら、フォニス・ドッグに見られる特異的な11の遺伝子領域には、遺伝的多様性の小ささをカバーするような、たとえば病気を発症しにくくするといった遺伝子変異が存在しているのかもしれない、などと想像してしまうのです。

【参考文献】
Commonalities in Development of Pure Breeds and Population Isolates Revealed in the Genome of the Sardinian Fonni's Dog. Genetics. 2016 Oct;204(2):737-755

【参考サイト】
NIH
ScienceDaily

 

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