専門的な獣医療が広く受けられる日本になるように~日本獣医学専門医奨学基金(JFVSS)代表理事、小林哲也獣医師に聞く

尾形聡子

コメント(0)

IMGP0562_500.jpg

この四半世紀ほどで、人と犬の暮らし方は大きく変わってきました。犬の寿命も延び、がんなどの加齢により発症しやすくなる病気が増え、犬にも人と同じような専門的な医療をほどこしたいと考える飼い主さんも増えてきています。一方で、日本の獣医療現場も多様化するニーズにこたえるべく着実に変化してきています。しかし、大学付属の動物病院のほかに専門診療を行うことができる動物病院はまだそれほど多くないのが現状です。

日本人初の米国獣医内科学専門医(腫瘍学)として認定を受けた小林哲也獣医師は、犬や猫の専門診療を行う病院の先駆けとなった公益財団法人 日本小動物医療センター付属 日本小動物がんセンター センター長として、2004年から勤務されています。がんの専門獣医師として日々多くの犬や猫のがん治療を行いながら、2011年に日本獣医学専門医奨学基金(JFVSS)を設立。かかりつけ医と専門医が連携してより適切な獣医療を施せるようにするためには、まだ日本に数少ない専門獣医師を増やしていくことが必要だと考えてのことです。

専門医制度、専門獣医師の育成が遅れている日本

「人の場合、具合が悪くなったら、まずは町のお医者さんに行きますよね。そこで治療できない難しい病気だということが分かった場合には、専門医のいる病院へ行って診察を受けてください、という仕組みになっていますよね。それとまったく同じで、欧米の獣医療は、一般診療をするかかりつけの獣医師と専門医との分業がはかられています。」

アメリカで獣医療の診察を分業してきた歴史は古く、1960年代から始まっていたそうです。

「ヨーロッパの獣医療体制もアメリカに追従し、確立してきています。アメリカは総合商社的に、どんな診療科でも専門医制度が確立しているのですが、ヨーロッパはどちらかというと専門商社的で、得意とする診療科がそれぞれにあるという状況です。欧米と比較して日本全体の獣医療は決して遅れているとは思いませんが、専門医制度は遅れている状況にあります。」

ではなぜ専門医制度があるといいのでしょうか。

「たとえば一般開業している動物病院に、CT や MRI など専門的な病気を診断するための医療機器を導入すれば、かなりのコストがかかります。けれども専門的な病気は専門医のところでというシステムができれば、一般病院は過剰投資を避け、日々のコストを下げることができますし、ひいては診療代を下げることにもつながります。さらに近年、病気は広く深くなってきていますから、一般開業の先生がすべての病気を診るのは大変になってきているのです。診療科目によっても得手不得手があるでしょう。専門医制度を充実させ、それぞれの地域で一般開業の獣医師と専門獣医師がうまく連携をとっていくことは、医療面でもコスト面でも、犬や猫、飼い主の方、獣医師すべてにとっていいことと考えています。」

日本で専門医制度が遅れている理由のひとつに、そもそも専門医の人数自体が少ないため、教える側人材の少なさも挙げられるといいます。

「とにかく教員が少ないです。専門医を誰が育てるのか、どこで育てるのか、そもそも育てる資格があるのか、ということです。」

小林先生は日本国内で専門医を増やすための教育システムの構築も進めつつ、2015年には年間約150回にも及ぶ教育講演を行うなど精力的に活動を続けられています。さらに専門医制度が定着していくためのスピードをアップさせるために、日本獣医学専門医奨学基金(JFVSS)を設立されました。

JFVSS 設立のきっかけは、2008年、コロラド州知事の提案により始まった"コロラド州とアジア2カ国(日本および中国)との交流を図り、相互に有益な事業を展開しよう"とするプロジェクトが開始されたところに始まります。その一環として、コロラド州立大学獣医学部では専門医教育プログラムを、日本からは人材を提供するという提案を小林先生は受ける運びとなりました。

「今の日本の獣医療分野になにが必要かを考えたとき、そのひとつがこれまでお話ししてきました専門的な獣医療を発展させることだったのです。獣医療の背骨を太くしていきたいと。足掛け3年くらいかかったでしょうか、プログラムの内容を精査し、交渉に交渉を重ねました。そうして、アメリカ獣医学専門医の育成プログラムへの参加支援をするために JFVSS を立ち上げたのです。」

IMGP0566_500.jpg

アメリカ人でも超難関、専門獣医師の資格取得

「門戸は開かれているのですが、ごく一握りのトップ獣医師しか専門医過程に入ることはできません。」

アメリカで獣医師の資格をとるには一般の大学で4年間教育を受け卒業後に獣医大学でさらに 4年間の勉強をする必要があります。獣医学専門医になるにはその中の上位5%がインターンというシステムに入ることができ、さらにその中の一部が専門医養成コース(レジデントコース)に進むことが可能で、その後も切磋琢磨しあっていくという仕組みになっているそうです。

「門戸は開かれてはいるものの、とにかく狭い狭い門なのです。そもそも日本人などの外国人がそのトレーニングシステムに入ること自体がとても困難なのですが、そんな希少なポジションを確約してもらえるのが JFVSS のプログラムなのです。だからこそ、JFVSS からは日本人のトップ獣医師を送りたいと思っています。獣医学的な知識だけではなく、人間性はもちろん、自分が日本の獣医療を背負っていくんだという気概も必要です。」

JFVSS の留学プログラムは5年間。参加応募には、日本の大学の獣医学部で6年、そのあとに最低3年の臨床経験が必要とされるため、認定専門医になるにはトータルで最低でも14年という年月をかけるとこになります。その長さを考えるだけでも、専門医になるためには相当の覚悟と努力が必要なことは明らかです。

「長いと思われるかもしれませんが、実は、アメリカで5年というのは短い方なんですよ。私も6年半かかりましたし、個人で留学される先生たちは10年くらいかけて専門医の認定をとっています。」

今年3人目の留学生を送る予定

これまでに、JFVSS から2名の獣医師がコロラド州立大学の専門医育成プログラムに参加し、最初の留学生は来年に帰国する予定だそうです。今年は内科専門の3人目の獣医師を送る予定でいますが、専門獣医療を学ぶためのポジションは確約されてはいるものの、留学するには学費や生活費が必要となってきます。

「留学の費用は学費と生活費で1年間500万円、5年間で2,500万円ほどかかります。個人で留学すると学費だけでも相当な額が必要となるのですが、JFVSS では学費の面でも大学側と交渉しました。優秀な方でも資金面で留学を断念せざるを得ない場合もありますので、これらの費用をすべて JFVSS でバックアップし、返還も不要としています。そのかわり、必ず日本に戻ってきてその専門性を活かし、日本の動物たちとご家族を救ってください、としています。」

これまで、アメリカで専門医の認定を受けた日本人はそのままアメリカで働く人がほとんどだったそうです。

「最近アメリカでは専門医過多になり始めてきたこともありまして、以前よりは少しずつ日本に戻ってくるようにはなってきました。それでもやはり、日本には専門医が少ないという状況であることには変わりありません。」

現在 JFVSS では、9月からのプログラム開始に向け、3人目の留学生を選考している最中だそうです。このような JFVSS の活動そして制度を通じて留学する、日本の未来の獣医療を担う若手獣医師がいるということを、一般の人々にも知ってもらい応援して欲しい、という思いから、小林先生はクラウドファンディングによるプロジェクトを立ち上げました。

"米国獣医専門医取得を目指す若き獣医師を応援したい!"というプロジェクトとしてクラウドファンディングを通じて広く支援をつのっているところです。初めての試みなのでどうなるかわかりませんが、目標金額は、JFVSS でバックアップする費用2,500万円のうちの100万円としています。」

クラウドファンディングは目標とする金額に達しないと、そのプロジェクトに対する支援は成立しないそうです。また、目標金額を超えての上限はなく、応援資金は集まった分だけそのプロジェクトの支援へと利用されることになります。応援の期限は2月21日(火)午後11時まで。日本での専門医制度の発展を応援したいと思われる方は、リンク先のページをぜひご覧ください。

「ご自身がともに暮らしている動物、または、これから暮らそうとしている動物が病気になるかもしれない、といった時のための将来への投資になるので、このプログラムは見えにくく、投資しにくい面があると思います。しかし、JFVSSの留学プログラムは、必ずや日本の獣医療全体のレベルアップへとつながります。そして、より専門的で適切な治療を受けられる動物も増え、飼い主の方々の助けにもなると思っています。」

IMGP0576_500.jpg

JFVS 理事、米国獣医病理学専門医で病理組織検査ノースラボ代表の 賀川由美子先生と一緒に。「人と同じなのですよ。かかりつけの病院で病気を見つけてもらい、そのあとは専門診療がある病院を紹介しますのでそちらで治療をしてもらってください、という制度を作っていきたいのです。そのためにも、専門医による専門的な治療を受けられる動物病院を増やしていきたいです。」と賀川先生。

病気は増えている?高まる専門的な治療の需要

昨今、犬の寿命が延びていることから病気が増えてきている感がありますが、実際に高度な医療を必要とするケースは増えているのでしょうか。

「病気自体が増えているというより、病気が見つかり、診断がつくようになってきているというほうが正しいですね。病気自体は昔から変わっていないのです。あとは、室内飼育が増えて飼い主さんが病気に気づくようになったこともあります。それに伴い、高度な医療への需要も増してきているといえます。」

専門的な治療が必要かどうか、わたしたち一般の飼い主には判断することはできません。その見極めはすべてかかりつけの獣医師の手にかかっているともいえます。

「一人の獣医師がすべての科の診療をするというのは、やはり無理があると思いますので、"このまま治療しますか、それとも専門の先生に診てもらいますか?"という選択肢を飼い主さんに提案してくれる病院を選ぶというのが、ひとつのポイントになってくるかと思います。」

今、犬は2頭に1頭が、猫は3頭に1頭ががんで死亡する時代です、と小林先生。それは人が犬や猫を大切にしている証拠でもあるといいます。

「すべては飼い主さん次第ではありますが、個人的には人の医療と同じようにする必要はないと思っています。意味もなく寝たきりのままの状態でいる、というのは動物ではあまりありませんよね。実際に安楽死という選択はそう多くありませんが、動物の命を尊厳し、最後には楽にしてあげる選択ができますので、できる限りの治療をしていきましょうか、という提案をすることもできます。みなさんそれぞれ犬や猫といろいろな暮らし方をしていますから、一概に私の価値観で決められる部分ではありません。ですので、飼い主の方から求められるものに対して、しっかりとした専門医療をもってこたえていきたいと思っています。」

【参考サイト】
公益財団法人 日本小動物医療センター
日本獣医学専門医奨学基金(JFVSS)
"米国獣医専門医取得を目指す若き獣医師を応援したい!"というプロジェクト
病理組織検査ノースラボ

 

GREEN DOGがお勧めする商品

フード選びに迷ったら。厳選お試しセット
累計注文30,000食突破(2016年7月現在)
フード選びに迷ったら。厳選お試しセット
EPA・DHA豊富!皮膚被毛の健康をサポート
EPA・DHA豊富!皮膚被毛の健康をサポート
ワイルドアラスカンサーモンオイル
獣医師も注目する「お腹の強力サポーター」
獣医師も注目する「お腹の強力サポーター」
バランスフローラ
諦めないで!歯磨き嫌いさんにはコレ
諦めないで!歯磨き嫌いさんにはコレ
ペット用歯磨きジェル 歯にマヌカ
食べきりサイズのおやつが5種類試せる!
食べきりサイズのおやつが5種類試せる!
WITH GREEN DOG ミニサイズおやつセット

dog actually ライター書籍 PickUp

「犬と遊ぶ」 レッスン テクニック: 見落としがちな「犬との遊び」は最大のトレーニング法だった! (世界のドッグスペシャリスト)
「犬と遊ぶ」 レッスン テクニック: 見落としがちな「犬との遊び」は最大のトレー… イェシカ・オーベリー (著), 藤田 りか子 (編集, 写真) 誠文堂新光社 (2015/8/20)
最新 世界の犬種大図鑑: 原産国に受け継がれた420犬種の姿形
最新 世界の犬種大図鑑: 原産国に受け継がれた420犬種の姿形 藤田 りか子 (著), リネー・ヴィレス (著, その他)
誠文堂新光社 (2015/2/24)
ドッグ・トレーナーに必要な「子犬レッスン」テクニック: 子犬の気質を読みながら、犬の語学と社会化を適切に学ばせる (犬の行動シミュレーションガイド) (犬の行動シミュレーション・ガイド)
ドッグ・トレーナーに必要な「子犬レッスン」テクニック: 子犬の気質を読みながら… ヴィベケ リーセ (著), 藤田 りか子 (編集), Vibeke Sch. Reese (原著)
誠文堂新光社 (2014/8/20)
よくわかる 犬の遺伝学: 健全性から毛色まで、知って役立つ遺伝の法則
よくわかる 犬の遺伝学: 健全性から毛色まで、知って役立つ遺伝の法則 尾形 聡子 (編集)
誠文堂新光社 (2014/1/20)
今日からチャレンジ! 楽しいローフードのすすめ
今日からチャレンジ! 楽しいローフードのすすめ カリーナ・ベス・マクドナルド (著), 森 ひとみ (翻訳), 尾形 聡子 (翻訳)
エー・ディー・サマーズ (2014/2/28)
DVDBOOK 犬はしぐさで会話する(1): ヴィベケ・リーセの犬のボディランゲージ解説 ()
DVDBOOK 犬はしぐさで会話する(1): ヴィベケ・リーセの犬のボディランゲージ解説 ヴィベケ・リーセ (著), 藤田 りか子 (編集)
誠文堂新光社 (2013/12/10)
いぬ語会話帖: 犬の言葉をシンプルに理解するためのフォトブック
いぬ語会話帖: 犬の言葉をシンプルに理解するためのフォトブック ヴィベケ・リーセ (著)
誠文堂新光社 (2014/7/10)
ドッグ・トレーナーに必要な「深読み・先読み」テクニック: 犬の行動シミュレーション・ガイド
ドッグ・トレーナーに必要な「深読み・先読み」テクニック: 犬の行動シミュレーション・ガイド ヴィベケ・S. リーセ (著), 藤田 りか子 (編集, 写真)
誠文堂新光社 (2011/8/19)
ドッグ・トレーナーに必要な「複数の犬を同時に扱う」テクニック: 犬の群れとリーダーシップについての深まる謎を解く! (犬の行動シミュレーションガイド)
ドッグ・トレーナーに必要な「複数の犬を同時に扱う」テクニック: 犬の群れとリーダーシップについての深まる謎を解く!… ヴィベケ・リーセ (著), 藤田 りか子 (著)
誠文堂新光社 (2013/4/19)
ドッグ・トレーナーに必要な 「犬に信頼される」テクニック: 「深読み・先読み」の第2弾、問題行動はこれで直せる! (犬の行動シミュレーションガイド)
ドッグ・トレーナーに必要な 「犬に信頼される」テクニック: 「深読み・先読み」の第2弾、問題行動はこれで直せる! … ヴィベケ・リーセ (著), 藤田 りか子 (著)
誠文堂新光社 (2012/11/19)

もっと見る