缶詰フードと環境ホルモン

ガニング亜紀

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(photo by 445693

私は今、少しばかりショックを受けています。ショックと言うより、肩を落として「やれやれ」と言いたい気持ちの方が近いかもしれません。ショックの原因は、今月初めにミズーリ大学獣医学部の研究者によって発表された「缶詰ドッグフードを2週間与えた犬を血液検査した結果、血液中のBPA値が高くなっていた」という報告です。

BPAというのはビスフェノールAの略称で、ポリカーボネート(プラスチックの一種)の原料になる物質です。BPAは『環境ホルモン』と呼ばれるもののひとつですが、環境ホルモンというのは俗称で、正式には『内分泌かく乱物質』=動物の生体内にとりこまれた場合に、本来その生体内で営まれている正常なホルモン作用に影響を与える外因性の物質と定義されます。

BPAは体内に入ると女性ホルモンに似た作用を示すことから、食品容器などから溶出したBPAによる生殖機能への影響など健康リスクの可能性が研究されています。

アメリカ国家毒性プログラムでは「さらなる調査や研究が必要ではあるが、乳幼児の神経や行動に影響を及ぼす懸念が幾分あるのではないか」と報告しています。

アメリカ食品医薬品庁は「BPAのリスクに関する研究については注視を続けるが、現在市場に出回っている食品に含まれるレベルのBPAでは健康への被害はないと考える。」という姿勢です。ただしアメリカやカナダではBPAを含むポリカーボネートを乳児の哺乳瓶に使用することを規制しています。

日本ではプラスチック容器からのBPAの溶出試験規格が定められ、規格内であれば成人への影響はないものと考えられていますが、胎児や乳幼児への影響については調査中で、その知見によって対策を検討するとしています。

犬と関係のなさそうな、ややこしい話を長々とすみません。

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(photo by bykst

さて、このBPAですが、缶詰食品の内側に金属缶の腐食を防ぐために塗装されたエポキシ樹脂の原料でもあります。今回ミズーリ大学による缶詰フードの研究で指摘されたのはこの件です。

実験に使われたのは、個人所有の健康な犬14匹。犬たちは普段はドライフードを食べていますが、実験のために2週間缶詰フードを与えられました。缶詰フードのブランドは2種類で、それぞれどちらかのフードを与えられたグループに分けられました。2種類のうち、1つはメーカーによって「BPA Free」という表示がされていたものです。 犬たちは実験開始前と終了後に便と血液の検査を受けました。実験後の検査の結果、犬たちの血液中のBPAの値が実験前の約3倍に増加していたということです。便検査の結果では、便に含まれる微生物の分布に大きな変化が見られたそうです。食べるフードが変われば腸内の微生物が変わるのは自然なことですが、実験後の変化はそれだけではない特徴的なものだったようです。この研究によると、体内のBPAが増加することで、腸内ではBPAやその他の内分泌かく乱物質を代謝させると考えられている微生物が減少する可能性が示されています。今回の研究チームはBPAそのもののホルモン様の作用よりも、腸内微生物の変化による健康への影響を懸念しています。

現在ほとんどのBPAのリスクに関する動物実験はラットやマウスで行われています。つまりラットやマウス、人間に関してはある程度のデータがあるのですが、犬についてはBPAと健康リスクの関連は未知の部分が多いのだそうです。今回の実験も短期間でサンプル数も少ないため、結論を出すにはまだまだ研究が必要な段階です。

今回のミシガン大学の報告について、私自身は「だいじな知識として頭に置いておこう。しかし総合的に考えると、決して好ましくはないが今まで与えてきた缶詰フードについてパニックになる必要はないだろう。今後は缶詰フードは非常食としてのみ少し備蓄しておくか。」と捉えています。

我が家の犬たちの食餌は家庭で調理したものをメインにしているというのもありますが、ドライタイプや冷蔵タイプのフードでも、パッケージのプラスチック製品は避けて通れないものですし、家庭で調理している食餌の材料にしても同じです。新しい研究の結果はできる限り知識として取り入れつつ、避け切れないリスクについては他の部分で補いながら、犬の健康を見守って行こうと思っています。他の補う部分というのは、適切な運動や定期的な健康診断、また私の場合は食餌に取り入れるハーブ類などです。

......と、こんな風に半ば開き直っているわけですが、冒頭で述べた「やれやれ」という脱力感は、実験に使われたフードの1つが「BPA Free」と書かれていたにも関わらず、犬たちの血中BPA値が上がっていたという部分から大きく来ています。私が買っている缶詰フードのパッケージもメーカーのサイトでBPAフリーとうたわれているものです。実験に使われたフードのブランドは明らかにされていませんので、自分が買っているフードが本当はどうなのかということはわかりません。

この記事を書くに当たって資料を読んでいるうちに、ずっと小規模メーカーだと思って愛用していたフードのブランドが、昨年超大手メーカーに買収されていたということをたまたま知りました。現在アメリカのペットフードはそのほとんどが大手5社の傘下に収められている状態です。フードそのものの原材料は同じグループのメーカーでもまだ多様性がありそうですが(それでも以前とは違う質になっていると思いますが)パッケージなどに関しては、同じグループ内では共通した質のものが使われている可能性が高いでしょう。

何も知らないままでは危ないし、気にし始めるとキリがないフードの問題。含まれる化学物質が体内に蓄積する可能性などを考えると、フードのタイプ・ブランド・メーカーはある程度ローテーションをしたほうがリスク回避になりそうですね。神経質になり過ぎず、かつ慎重にというバランスを取りながら、愛する犬のためのフード選びの悩みは尽きません。

【参考サイト】 ・Science Direct
厚生労働省「ビスフェノールAについてのQ&A」

 

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