なぜ飼い主の言うことを聞かない犬がいるのか?(2)対策編

史嶋桂

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以前僕は米軍基地で置き去りにされた犬を自分で訓練して里親さんに譲渡することもやっていた。だが今は他人の犬を訓練するのはできるだけやらないようにしている。一番の理由は僕が訓練した犬を里親さんがうまく扱えないことが良くあったからだ。今飼っている犬で見ても上の写真のジャンは他人のハンドリングに素直に応じるように訓練できたが、次の写真のマイロは家内か僕以外のハンドリングを受け付けるかどうかはハンドラーの技量次第になってしまう。そういう経験を繰り返したことから、僕は犬を訓練してくれた人に懐き従い易い生き物と考えている。

以前の記事でも書いたように、これは職業として犬の訓練を行っているプロのトレーナーに家庭犬の訓練を委託する場合にも起こりがちなことだ。犬は自分に適切な方法で訓練を入れた人間を尊敬し懐き易いのだ。

特に社会化の臨界期から順位闘争期に犬の訓練を行った人間に対して、犬は強い愛着を覚え、本来の飼い主より訓練手の言うことを良く聞くようになってしまう。

これは犬が社会性を持つ動物で、さらに高い知能を持つ肉食動物だからだ。以前の記事でも何度か触れたが、犬は自分を訓練してくれた相手を社会化の担い手=自分のリーダーとして捉え、尊敬する傾向がある。

その様子は幼少期から思春期に自分を適切な方法で導いてくれた教師や、習い事の師匠、クラブの先輩などに少年少女が寄せる感情に近いと思う。そうした少年少女がしばしば自分の両親より赤の他人である年長者を尊敬し、強く惹かれる例があることは、読者にも経験があるだろう。それと似たことが犬でも起こるというのが僕の考えだ。

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だから犬の飼い主は 「自分の犬が言うことを聞いてくれない」 なら、自分の犬の訓練を自分でいちからやり直すべきだ。そうしないと犬は飼い主であるあなたに懐かず、訓練士の飼い犬のように振舞うようになってしまいかねない。それが飼い主の言うことを聞いてくれない犬ができてしまう原因のひとつなのだ。

大切なことなので繰り返す。同じことは、まだ訓練をちゃんと行っていない犬でもおこる。犬の飼い主は、自分の犬が誰かよその人に懐いてしまう前に、自分の犬の訓練を自ら行わなくてはならない。もちろんそのための助力をプロから受けるのは必要なことだ。ただしプロの訓練士に犬の訓練を委託するときは、けっしてまかせきりにしてはならない。訓練士自身からきちんと訓練方法を教わり、飼い主自身が毎日少しずつでもその訓練を実践しなくてはならない。

飼い主自身もたくさんのことを学ぶ必要がある。どんなふうに視符や声符を出すのか?どんな態度で犬に接すべきか?どのように犬をリードするか?そういうことまで含めて飼い主自身も訓練してもらうのがお勧めだ。それを怠ると、多くの場合あなたの犬は訓練士やよその人をあなたより尊敬するようになり、飼い主の言うことを聞かなくなる可能性が高い。

僕の場合も一時預に過ぎない僕の方が、本来の飼い主となる里親さんより保護犬に懐かれてしまうことが良くあった。この件について先日幼馴染みのある女性に言われて、なるほどと思ったことがあった。

「あなたは筋金入り犬たらしだから」

その女性が飼っていた牝犬も、散歩の途中で僕に会うと、仔犬のようにキャンキャン啼き、盛大に尻尾を振り、クネクネと身体をくねらせながら僕に駆け寄ってきたものだ。その間飼い主の言うことは一切聞かなくなってしまう。それは牝犬がまだ若いときに僕が基礎訓練を入れたからだ。彼女(牝犬)はその訓練の過程で僕に強く社会化されてしまい、その度合いが飼い主より強かったため、僕に出会うたびに飼い主を無視して僕に駆け寄る犬になってしまったのだ。

その社会化の差は、犬に基礎訓練を一から入れた僕と、僕に任せて自分では訓練しなかった幼馴染みの女性との差そのものなのだ。

飼い主には申し訳ないが、一旦こうなってしまった犬と人の関係は変えようがない。僕はその反省もあって、他人の犬の訓練はあまりやらなくなった。その代わり飼い主に訓練手法を教えることを積極的にやるようになった。だから今は主に飼い主自身の訓練を行うようにしている。

前置きが長くなった。今回は訓練の際のご褒美の与え方で 「飼い主ときちんとアイコンタクトできる犬」 にする方法を説明するつもりだった。それが 「飼い主の言うことを聞かない犬」 への効果的な対処法の一つだからだ。

これは餌を使った犬の訓練に馴れた方ならだれでもやっていることにほんの少しアレンジを加えたものだ。

まず、餌をご褒美にしてアイコンタクトとスワレを徹底的に教える。その過程で手指で出す視符にも注目するようにしてしまう。

飼い主が自分で犬の訓練を試みても、うまくいかない状況では、アイコンタクトから出来ていないことが多い。ここで言うアイコンタクトは親犬と仔犬の間の視線のやり取りに近いものであり、思春期のチョイ悪男子がやるガンつけとは意味が違う。犬は期待をこめて飼い主を見なくてはならないし、飼い主は犬の注目に穏やかな表情で応えなくてはならない。

アイコンタクトの練習は最初、犬が空腹な状態で、犬が確実に欲しがるような餌を使って始めると良い。

僕のやり方とその理由を書くと以下のようになる。

  • 犬を大人の膝くらいの高さの台や椅子の上に乗せる。子犬や小型犬の相手をする時は飼い主も姿勢を少し下げる。
  • これには複数の理由がある。
  • 犬と飼い主の視線の高さを近づける。
  • 犬の視点を上げて犬に優越感と安心感を与える。
  • 犬を地面(床)から離し若干の緊張をもたらす。
  • 地面(床)の匂いを気にしないようにする。
  • 同時に飼い主が持っているご褒美の匂いを嗅ぎ易くする。
  • 犬を台に乗せるだけでもこれだけの理由があるのだ。

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  • 犬を台に乗せたら、犬と人間の顔の中間でご褒美の餌を割って見せる。毎回これを繰り返すと、犬は人間の顔や手指にも注目するようになる。その事で、視符と声符に従いやすくなる。
  • 犬の目の前で餌を割って見せることで、嗅覚と視覚、さら聴覚で、犬の注意を惹きつけアイコンタクトを強化し、さらに飼い主が持っている(犬から見れば第二のマズルに咥えている)おいしそうなものを貰うには自分はどうすれば良いか?を犬に考えさせる。
  • 犬に注目させ考えさせることで犬のモチベーションを上げることができる。
  • 犬の視線が飼い主の顔と手指に集中したら、スワレと声符と視符を出す。
  • 犬が座らないときは、補助動作を使って座らせるか、餌を持った手で視符を出しながら、犬の頭の上をゆっくり奥に押し込むようにする。
  • こうすると犬は台の上で餌を持った右手を見上げながらしりもちを着くように座ることが多い。そのまま後ろにさがり続けると台から落ちてしまうからだ。
  • 飼い主は犬が台から降りず=座った位置から動かず、立ち上がらない=スワレに従い続ける微妙な距離を選んで立ち、極短時間、マテの視符とともに犬に餌を見せながら、さらに細かく割って見せる。
  • 犬から見ると、これは親犬が自分に与える肉を引き裂いているように感じられる。犬は期待をこめて飼い主を見続けることになる。

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  • 犬が座ったまま飼い主が餌を割って細かくするのを待っていられたら、ヨシヨシ・スワレと犬が出来たことを挟んで笑顔で大袈裟に褒めながら極小さな餌を与える。
  • 同じことを数回犬の興味が続く範囲内で毎日根気良く繰り返す。最初は5分くらい犬の集中が続けば十分だ。訓練を終了するタイミングは犬の注意力が落ちる前だ。これを守ると犬は自分だどう振舞ったことでご褒美がもらえたか強い印象とともに学習することができる。
  • 毎日訓練を繰り返すと、やがて犬はスワレと言われなくても、飼い主の顔を見て、餌を貰おうと自主的に飼い主の前にきて座るようになる。
  • その場合は犬の自主行動でもヨシヨシ・スワレと飼い主の指示に従ったことにして褒めてご褒美を与えて構わない。
  • 望ましい犬の振る舞いは、どんなきっかけで行われたものでも毎回必ず笑顔で褒める。
  • 可能なら良い振る舞いは何でも餌を与えて強化してしまう。室内トイレで上手に排泄した時だって、ご褒美を与えて褒めてしまう。
  • 褒めるタイミングとポイントは、犬が餌欲しさに吠えたり飛びついたりする少し手前、大人しく座っていられる限界を飼い主が見極めてヨシヨシ・スワレと褒めて餌を与えること。
  • 飼い主が犬に向かって微笑むのが苦手なら、イイコ・スワレと褒めても良い。
  • イイコと発音すると、チーズと言って写真に写るのと同じように、飼い主の口元は犬から見て、犬がリラックスしている時の口元に似て見えるので効果的だ。

僕はもう50年以上犬の飼養と訓練を続けているが、普段から当たり前のように、犬に微笑みかけ、タイミング良く褒めることで訓練してきた。ボールを投げて犬が取ってくるリトリーブ訓練も同じだ

ただし訓練の報酬に餌を与えるようになったのは今飼っているジャックラッセルテリアたちからだ。

いずれにしても、犬に微笑みかけ、出来たことをタイミング良く褒めることでうまく訓練が入らなかった犬は今まで一匹もいなかった。最初からアイコンタクトの良い犬は極短期間で飼い主の言うことを聞くようになったし、アイコンタクトから教えなければならなかったマイロのような犬も時間はかかったが、最終的には訓練課題をこなせるようになった。

自分の飼い犬の訓練がうまく行かなくて悩んでいる飼い主さんは、試しに、ご褒美の与え方で犬とのアイコンタクトを強化し、訓練へのモチベーションの上げるところから試してみてはいかがだろう。

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