犬のゲノム研究が明らかにしてきたこと(21)-日本のトイ・プードルに広がる目の遺伝病PRCD

尾形聡子

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[photo by Jorge L Serrano]

遺伝性の犬の眼疾患において、その発症原因となる遺伝子変異がこれまでに30ほど報告されています。水晶体脱臼、コリー眼異常、遺伝性白内障などの原因遺伝子がわかってきていますが、同定された遺伝子の大半をしめているのが網膜に関する病気です。

目の後ろ側(眼底)に存在する膜のひとつの網膜の病気は、PRA(進行性網膜萎縮)という名前で広く知られるようになりました。PRA は進行性網膜萎縮の病気の総称で、網膜にあるものを見るために重要な視細胞(杆体細胞、錐体細胞)が主に影響を受け萎縮していく病気のことをいいます。両眼性で、夜盲症から始まることが多く、数か月から数年かけて進行していき失明に至ります。PRA は犬種によって原因となる遺伝子変異も違えば遺伝形式も異なり、発症時期や進行スピード、病理的特徴もそれぞれで、さまざまなタイプが存在しています。

ほとんどのタイプで常染色体劣性遺伝形式をとることがわかっていますが、一部例外としては、イングリッシュ・マスティフやブルマスティフなどでは常染色体優性遺伝、シベリアン・ハスキーなどではX 連鎖劣性遺伝をします。

PRCD(進行性杆体-錐体変性)とは?

PRA は早発性のものと遅発性のものに分けられます。早発性は一般的に生後数週間で発症することが多く、視細胞の発達異常が見られるものです。アイリッシュ・セター、コリー、ウェルシュ・コーギー・カーディガンなど犬種ごとにいくつかの原因遺伝子が明らかにされています。

一方、遅発性のものは、視細胞が萎縮し始める前に完全に正常な網膜が形成されます。臨床症状が出てくるのは1歳以上になってからで、だいたい2歳~5歳くらいの間に症状に気づかれることが多いといわれています。この遅発性の PRA のうちのひとつ、PRCD(progressive rod-cone degeneration:進行性杆体-錐体変性)がもっとも多くの犬種に発症するタイプで、劣性遺伝をします。また、人の網膜色素変性症と似通っている部分があることがわかっています。

PRCD の原因となる遺伝子変異が同定されたのは、いまから10年前の2006年のことです。9番染色体上にある PCRD 遺伝子の点変異(一塩基置換)が原因であることが明らかになりました。その当時は18犬種で確認されていたものが、いまでは30犬種ほどにまでその数は増えています。発症犬種としては、ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバー、プードル(トイ、ミニチュア、スタンダード)、アメリカン・コッカーなどがいますが、該当犬種の一覧は犬の DNA 検査を OPTIGEN のサイトから確認することができます。

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[photo by John Turner]

トイ・プードルの6頭に1頭がキャリア

以前『犬のゲノム研究が明らかにしてきたこと(18) - 日本での遺伝病の現状:ボーダー・コリーについて』で紹介しました研究を行った鹿児島大学のチームが、トイ・プードル、チワワ、ミニチュア・ダックスフンドの3犬種を対象に日本での PCRD の変異遺伝子の広がりを調査しました。

解析されたのはトイ・プードル200頭、チワワ57頭、ミニチュア・ダックスフンド100頭です。いずれの目の病気にもかかっていない個体で、日本の動物病院からランダムに集められた血液が解析に使われました。その結果、キャリアの個体数と割合は以下のようになったそうです。

  • トイ・プードル 33頭、16.5%(1頭はホモ接合、発症リスクあり)
  • チワワ 2頭、3.7%
  • ミニチュア・ダックス 0頭、0%

この結果を受けて研究者らは、トイ・プードルの16.5%というキャリアの割合は高く、繁殖を行う上で排除していくようコントロールしていく必要があるとしています。また、チワワでは57頭中1頭だけではあったものの、PRCD 遺伝子の変異型が見つかったのはチワワでは初めてのことです。割合としてはトイ・プードルよりもずっと低いですが、繁殖の際に注意すべき病気のひとつと考えていくべき、ともいっています。

いずれにしてもキャリアの場合は発症しないため、臨床症状は見られませんので、確認するためには DNA 検査を受けるしか方法がありません。言い換えれば、DNA 検査をしさえすればキャリアかどうかは簡単に判別できます。DNA 検査を繁殖現場に取り入れれば、それぞれの犬種の遺伝子プールを保持しつつ、発症リスクのあるホモ接合の個体を作らないようにし、病気となる変異した遺伝子を排除していくことができるとも研究者らはいっています。

また、ミニチュア・ダックスでは1頭も PRCD 遺伝子の変異型を持つ個体はいませんでしたが、ダックスはダックスに発症する別の網膜の遺伝病、錐体-杆体変性(Cone-rod degenerations)が存在しています。CORD1とかCRD4などとも呼ばれるこの病気は PRA と同じように視細胞が影響を受けて網膜が変性していく、常染色体劣性遺伝する病気です。まずは主に錐体細胞が、あとから杆体細胞が変性していくのですが、PRA ではむしろ先に杆体細胞に変性が見られます。そのため疾患名の語順が逆になっています。ダックスのこの網膜変性は、当初、早発性の PRA と考えられていました。しかし原因となる遺伝子が、15番染色体上の RPGRIP1であることが明らかにされ、今では PRA とはまた別のカテゴリの病気と考えられています。

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[photo by Eva Marley]

トイ・プードル、チワワ、ミニチュア・ダックスフンドの3犬種は、2003年から2015年の間ずっと JKC への登録頭数トップ3を占めている犬種で、全登録数のおよそ半数にものぼっています。今回の研究結果の割合から計算すると、たとえばトイ・プードルの2015年の登録頭数は76,992頭なので、そのうち約12,000頭もの犬がキャリアの可能性があると考えられます。PRCD の原因遺伝子が同定されてから10年以上たちましたが、これは、減らす方向の繁殖努力が行われての数字なのか、逆に、努力がなされずに増えている数字なのか、もしくは努力はしているものの割合は変化しないままでいる数字なのかは判断することができません。しかし、トイ・プードルの繁殖にかかわる人の大半が、この病気を減らす努力をしてきた結果の数字とはなかなか考えにくいのではないかと思います。

PRCD は劣性遺伝病のためキャリアならば発症することはありませんが、PRCD をはじめ PRA の治療法はまだ確立されていません。痛みはなく、それが原因で命を落とすこともない病気ですが、進行すれば完全に視力を失います。DNA 検査を利用した繁殖を行うことの重要性について、早急に世の中に認識されていく必要があると感じています。

【参考文献】
Real-time PCR genotyping assay for canine progressive rod-cone degeneration and mutant allele frequency in Toy Poodles, Chihuahuas and Miniature Dachshunds in Japan. J Vet Med Sci. 2016 Mar; 78(3):481-484.
The genetics of eye disorders in the dog. Canine Genet Epidemiol. 2014 Apr 16;1:3. 

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