ワーキング・ドッグはペットになるか?

藤田りか子

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軍用犬としてトレーニングを受けているマリノア

数年前にデンマークの軍用犬のトレーニング場を取材のために訪れたことがある。メスのマリノアを担当しているあるハンドラーがこう言った。

「普通に公園なんかを散歩させることはやっぱりできないんですよ」

というのも、ハンドラーの周りに来る「怪しい人間」に対する防衛心とか警戒心が過度に研ぎ澄まされているためだそうだ。実際に、現場(確かアフガニスタンだと思ったが)で護衛として命を救ってくれたことが何度かあり、素晴らしい手柄を立ててくれたたとのこと。その詳細についてはただし話をしてくれなかった。ということは、それほど激しいアクションに出たのは間違いはない。

このようなワーキングに耐えうる犬を作るブリーダーは、それなりの気質を選んで繁殖するし、またこれを育てるハンドラーもトーニングによってその才能を伸ばそうとしている。だから普通の「社会」に出て行って、その部分を「抑え込む」ようなことはしたくないのだ。社会に出れば、犬は公共に迷惑をかけないように振舞わなくてはならない。何かあってもそれは軍用犬だから、という言い訳は許されない。ならば、公園に出さない方がいいのである。

なるほど、この意味で、ワーキング系にブリードを受けた犬というのは必ずしも家庭犬として適性があるとも限らなさそうだ。スウェーデンにその昔「国立職業犬訓練所」と呼ばれるところがあり、ジャーマン・シェパードを主にブリーディングしていた。ここで気質テストについて担当をしていた方が講演をしてくれたことがある。その人は、

「軍用犬としてテストにパスする犬は、決して普通のドッグスポーツの競技会に向くようなタイプでもないのです。まず普通の人には扱いが困難な自立心に富んだ犬です。こう言う一筋縄で行かない犬が実は警察犬とか軍用犬にはいいんです」

とも話してくれた。

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ジャーマン・ハンティング・テリアの猟欲はとても強いのだ

軍用犬とか警察犬に適する犬はワーキング系の中でもかなりエクストリームな部類に入るが、狩猟犬というワーキング・ドッグならどうだろう?狩猟犬としてブリーディングを受けた犬は果たして家庭犬として成り立つのだろうか。

これは犬種というか狩猟のタイプにもよるのではないかと思う。その中でも狩猟系のテリアは(ジャーマン・ハンティングテリアなど)は、かなり癇が強く難しいタイプだろう。狩猟をさせないで飼っていれば、そのうち猟欲をどこかとんでもない方向へ向けてきそうで、危うい犬たちとなるかもしれない。実はそういう犬に会ったことがある。

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ノルウェージャン・エルクハウンドは家庭犬として成り立つ狩猟犬と言う人もいるのだが...

ただし、気質の激しさだけが家庭犬として不適切な条件とは限らない。

スウェーデンのとある都市に在住のAさんは親が飼っていたノルウェージャン・エルクハウンドを引き継いだ。この犬種は、ノルウェーを原産とするスピッツ種。ヘラジカの狩猟に専科している。北欧諸国ではまずペットとして飼われることはない犬だ。

さて、親から引き継いだもののAさんは狩猟をしない。ただしスピッツ猟犬の中でもノルウェージャン・エルクハウンドの気質はかなり「マイルド」。それなりの運動を与えていたら家庭犬になれなくもないはずだろう、ということでAさんは飼ってみた..

ところが、いちいち音に反応してワンワン吠える。アパート暮らしのAさんとしては何度もヒヤヒヤしたそうだ。おまけにちょっと放せば、森の奥に入ってしまいなかなか帰ってこない(獲物のにおいをとってどこか行ってしまうのだ)、リードは引っ張る.....

「でも、それを抜かしたら、世界一、優しくて、可愛い犬なんです....」
しかし、狩猟ができないというのが致命的であったとAさんは当時を振り返る。狩猟犬としての刺激を与えられていたら、あれほどワンワン敏感に吠えることもなかっただろう。

「やはり家庭犬には家庭犬として合うべき気質というものがある」

というわけで、彼女はノルウェージャン・エルクハウンドを純粋な家庭犬としては絶対に勧めないと話してくれた。

ヨーロッパでは実猟用の狩猟犬のブリーディングが盛んだ。彼らが家庭犬として自分たちの子犬を売ることは滅多にない。家庭犬として適さないためもあるが、もう一つ、その犬の才能が開花されずに家庭犬として埋もれるのを非常に嫌がる。そもそも、犬の精神衛生のためにも良くない。Aさんの話を聞けばそれも納得だろう。ワーキングドッグとして生まれた犬にはやはり仕事を与えなければならない、ということである。

 

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