「日本と海外の動物法を徹底比較する」シンポジウムレポート(7)

尾形聡子

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前回に引き続き、『日本と海外の動物法を徹底比較する』シンポジウム第2部のパネルディスカッション、業者規制制度についてのディスカッションの模様からお伝えしていきます。

議題(1) 業者規制制度を徹底比較:つづき

現行法にある狂犬病予防法は機能しているのか

細川さん:「日本における犬の登録率は65%程度、その中で狂犬病の予防注射を接種しているのが72.6%という数字がでています。この数字から、飼育されている犬全体の47%ほどしか予防接種を受けていないという状態であることがわかります。つまり、日本の犬の飼い主の半数ほどが違法な状態にあるともいえるのですが、警察が実際にそれを取り締まっている状況はありません。そもそも狂犬病の予防接種そのものをしなくてもいいのではないか、とも聞くことがありますが、それについてはどのように考えればいいでしょうか。」

西山さん:「狂犬病が怖いのは、狂犬病に罹っている犬が狂犬病の症状を発症するまでに時間がかかるという点です。だいたいは1ヶ月以内には発症します。ですので、一見ふつうの健康そうな犬であっても、コウモリなどの野生動物から狂犬病ウイルスをうつされているかもしれません。その犬に人が咬まれれば狂犬病に感染し、発症すればほぼ100%死亡するといわれています。私は実際に狂犬病のあるアメリカで獣医師をしていましたので、その怖さは身をもって感じてきました。狂犬病予防法は、犬ではなく人間を守る法律だと理解しています。」

京子さん:「日本は狂犬病清浄国ですし島国ですから、狂犬病にはかからないという安心感を持っていると思います。ただし、船の場合、犬を連れてきたとしても入国審査のときに申請する欄がありません。空港での動物検疫は厳しいですが、水際対策が甘いと感じています。水際から犬が入ってきたとしても見えないところでのできごとですから、どうしても危機感を持ちにくいのかもしれません。しかし、そういった危険な状況にもあることを念頭に置き、犬そして自分の身を守るためには狂犬病の予防接種が必要だという意識を高めていくことが大切だと思います。」

山口さん:「狂犬病という名前のために犬しかかからないと思っている方が意外にも多いと感じますが、ほとんどの哺乳類がかかる病気です。水際ですと、たとえば海外からコンテナが届いて、それを開けたらネコが飛び出てきたというようなことが実際に起きています。紛れ込んでしまうこともあるのです。つまり、いつなんどき狂犬病が発生するかわかりませんから、これからも狂犬病を予防していくためには接種率をもっと上げる必要があると思っています。そうしなければ、社会としての予防にはならないからです。」

細川さん:「法律家の立場からしますと、法律で決められていて刑罰までついているものをやらなくていい、ということはあってはならないことと考えています。」

太田さん:「取材を通じてわかったのですが、これについてはちょっと悩ましく感じることもあります。実際に狂犬病の予防接種を受けていない一般の飼い主の方々のところへ指導をしにいくと、"そんなお金もかかって面倒なことはできない、今すぐ犬を持っていってくれ。他からまた新しい犬を連れてくるから"といわれることが多々あるのです。またこれは、マイクロチップの話にも繋がっていくと思います。」

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マイクロチップの問題について

太田さん:「日本では犬の登録を行い、狂犬病の予防接種をしなくてはならないし、鑑札をつけていないといけない、と義務化されています。一方でマイクロチップの義務化の是非があるわけですが、日本でマイクロチップを入れることの意味については2つの目的に分けて考えなくてはならないと思っています。ひとつは、ブラックボックス化されている犬の流通ビジネスのトレーサビリティを確保することです。もうひとつは個体識別の問題です。後者についてはそもそも、登録・狂犬病予防接種・鑑札で問題を解決できるはずですし、それが守られていない現状のところに新たにマイクロチップを導入しても、実効性はないだろうと考えられます。前者について、トレーサビリティを確保するためにマイクロチップを入れるとするならば、一般に対して義務化するのではなく、ブリーダーや繁殖業者に対しての義務化になります。出荷段階でマイクロチップをいれていないと、これは全く意味がないことになってしまいます。マイクロチップの問題について感じるのは、結局のところ利権の問題に集約される可能性がとても高いということです。マイクロチップが義務化されれば、当然、マイクロチップを入れることで儲けたいと考える獣医師の方が必ずでてきます。また、データを登録する団体が新たに必要となってきます。そのような思惑も存在するなかで、マイクロチップについての議論が進められているということを、みなさん、頭の片隅に置いておいていただきたいと思っています。」

吉田さん:「客観的に見た場合、マイクロチップは個体識別法として非常に優れた制度であるとは思います。ただし、そこについて回るさまざまな経済的な問題を見るに、個人的にはそれについてどうしても良しとできません。1999年の法改正の際に、環境省にはマイクロチップを義務化する考えがありましたが、その時点で義務化するためのすべての条件は整っておらず、大きな課題があると申し上げました。そのひとつが狂犬病予防法との整合性です。狂犬病予防法において、個体識別法が鑑札という形で存在していることを念頭におけば、まずやるべきことは、犬の登録率、予防注射の接種率を高める努力を環境省はすべきであるからです。法律家というものは、義務を二重に課することにとても消極的です。ですので、この義務をどういう形で一本化するのか?ということがひとつの大きな課題になってきます。」

西山さん:「マイクロチップを入れることに許可が必要なわけではありませんから、まずは入れ始めてみるのがいいかと思います。特に獣医師の方には、法律で決まっているから入れるというのではなく、いいことだから入れるというようにしていっていただきたいと。アメリカで、マイクロチップを入れることは個体識別、トレーサビリティも含めていろいろな意味でメリットがあると実感してきました。つまり、メリットがあるという事実が先にきて、その後に義務化されたという流れでしたね。」

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朝日新聞社の太田匡彦さん。「犬や猫などのペットは人間が生み出したものですから、理想的な社会の状態に持っていけないとしても、少しでも改善していく方向に進めていくことが人としての責任ではないかと考えています。」

太田さん:「今回の業者規制の議論の行き着く先には、生体小売業をどう扱っていけばいいということです。おそらくビジネスの在り方そのものを禁止するということは難しいと思います。一方で、動物福祉の観点から、その動物にとってはこういった飼養環境でなくてはならない、こういう条件で出荷しなくてはならない、といったルールを動物取扱業者の方々に守ってもらうように規制を強化していくことが、いわゆる動物取扱業の適正化になっていき、ひいては生体小売業という世界的に見て稀なビジネスが根付くようなわが国にも変化をもたらしてくるのではないかと、取材を通じて感じているところです。」

議題(2) 虐待防止制度を徹底比較

次の議題は"虐待防止制度"についてでした。こちらの議題では朝日新聞社の太田匡彦さんにかわり、女優で公益財団法人動物環境・福祉協会Evaを設立した杉本彩さんがパネリストとして参加されました。

細川さん:「1999年までは、動物の遺棄、虐待、殺傷の刑罰は罰金3万円が上限でした。それがこの15年間で罰金200万円、懲役2年などと大幅に上がっているのですが、それでもまだ実際に虐待事件は起きています。そこがこの議題の論点となるのですが、では、もっと刑罰を上げればいい、というようなことになってくるのでしょうか。」

杉本さん:「当協会(公益財団法人動物環境・福祉協会Eva)を立ち上げて2月7日でちょうど1年が経ちました。もちろんそれ以前から業者、家庭内での虐待が数多く起きていることは知っていたのですが、それでも驚くほどの数のさまざまな相談が日々協会に寄せられています。たとえば家庭内で起こっている虐待についてですと、犬が屋外に繋がれたままで散歩もせずに放置されているといった相談は本当に頻繁にあります。動物が虐待されているという話を聞いたがどうしたらいいのかという相談や、ブログやツイッター、SNSに虐待の様子を投稿しているのを見つけたのだけれどという相談も多く寄せられます。また、明らかに虐待されていると思われる動物が動物病院に持ち込まれたといった相談もあります。」

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公益財団法人動物環境・福祉協会Evaの理事長を務める杉本彩さん。「2020年のオリンピックまでに殺処分をゼロにしようということはよく言われていますが、それまでに生体販売をなくす、もしくは生体販売を縮小することが最も大切だと思っています。」

家庭内で虐待が起きている場合には・・・

京子さん:「ドイツには動物保護法がありますので、もしベルリンでそのような家庭内での虐待が起こっているとしたら、すぐに押収・保護という運びになります。虐待の状態を放っておく理由がありません。保護したあとは、所有権放棄になるか、飼い主が飼養環境を改善するか、状況を見て判断することになります。また、虐待がしつけの結果だと飼い主の方が主張したとしても、それには限度があります。わざと傷つけようと思わなかったとしても、自分の使った力が強すぎた結果として犬が傷ついた場合、それは適切なしつけの方法ではないことは明確です。日本においてもそれは罰則適応や指導の対象となりますが、残念ながら現時点では保護することはできません。ですから尚のこと、動物愛護センター等の行政機関が厳しく対応する必要があると思っています。とにかくみなさんが望んでいることは、一時的に虐待現場から動物たちを保護し、それから所有権や今後についての話をしていきましょうということだと思います。もしも人間が人間の事情を優先し、その状況が改善されることなく動物が虐待の場に置かれていることがあるとしたら、はたしてそれは愛護と呼べるのでしょうか。そういう問いを投げかけて欲しいですし、もっと議論されるべきことと思っています。」

吉田さん:「公務員については、犯罪の事実を把握した場合には通報の義務があります。この点は一般人とは異なることです。ですので、保健所の方が現状をみて虐待の定義(44条)に該当すると確認できたならば、警察に報告するという形をとる義務があります。また、日本国民であれば告発をすることができます。しかし個人で告発することはなかなか大変かもしれませんので、そのためにもインスペクター(動物査察官)のような人が動物愛護団体の中にいるといいのではないかと考えるわけです。」

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