犬の怒りと攻撃はどこから来るか(3)反抗期

史嶋桂

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この話は犬の怒りの原因を探る一連の記事の続きであると同時に「子犬を飼うのは大忙し!」の続きでもある。つまり子犬から犬を飼い始めた飼い主さんが必ず通らなければならない「若犬の反抗期」の話でもある。

反抗期と言う人間の成長過程で使われる言葉を用いたが、より正確には「順位闘争期」とすべきだろう。なぜなら犬の側から見ると、この行為は群れの中での順位を上げ、自分の生存確率を上げるために行う正当な行為だからだ。

生後4ヶ月ごろに訪れる恐怖期を過ぎ、生後5~6ヶ月くらいから犬は順位闘争を始める。それはちょうど性的に成熟しつつある時期にも当たる。牡犬は脚を上げて排尿を始め、散歩の途中でマーキングを行い、9ヶ月を過ぎた頃から牝犬は初潮を迎える。当然成熟が遅い犬、一部のプリミティブドッグや大型犬の多くは順位闘争の始まりも遅くなる傾向がある。

順位闘争期は思春期と言い換えても良い。この時期になると、犬は今まで出来ていた訓練にきちんと反応しなくなることがある。集中力が下がり、逆に他の犬や見知らぬ人に強い興味を示し、しばしば攻撃的に振舞うようになる。今まで仲良く遊んでいた他の犬にいきなり牙を剥き、野良猫を追いかける。機敏な犬なら野鳥に襲いかかり、ネズミを取るようになる犬もいる。一方で早すぎる順位闘争期を迎えた犬は、恐怖期の影響で見知らぬ犬や人、初めて行く場所を怖がり、ますます言うことを聞かなくなり、同時に恐怖の裏返しから攻撃的になっていく。こうして順位闘争期の犬は容易に怒りを爆発させ易くなる。

この時期に問題が大きくなるかどうかは、飼い主が子犬時代に施した社会化の範囲の広さと厚みにかかってくる。生後3ヶ月台の社会化の臨界期までに、子犬に対して、将来犬が出会うであろうありとあらゆる経験を積ませ、たくさんの犬と頻繁に遊ばせ、取っ組み合いをさせ、多くの人に構ってもらい、身内にしておけば、若犬が競合すべき相手は減少するからだ。

つまり子犬時代の社会化が充実していれば、順位闘争期も無事に乗り越えることが出来る。

ただしジャックラッセルテリアや紀州犬、柴犬のような獣猟犬出身の犬の場合は子犬の内に繰り返し「大人犬に負ける経験」を積ませる必要もある。こうした犬の身体能力は家庭犬として飼うには高すぎるからだ。幼時から若犬の時代に取っ組み合い遊びで何度も負けた経験は犬に自分が敵わない相手がいることを学習させ、自ら相手の下位に収まる心理にも結びつく。

反対にワクチン接種の都合などで、散歩を始める時期、他の犬と接する時期、社会化を始める時期が遅くなると、最悪子犬は生後4ヶ月過ぎから始まる恐怖期から散歩=第二の社会化を始めることになり、散歩で出会う何もかもが怖いという状況に陥ってしまうことがある。この状態の犬が順位闘争期に入ると、その攻撃性は他の犬や人のみならず飼い主自身にも向かうことがある。なぜなら犬は飼い主が自分を恐ろしい状況に追い込んだと勘違いしてしまうからだ。

このように順位闘争期=反抗期の犬の問題行動は、それ以前の子犬の社会化期における飼い主の対応に大きく左右される。

実はこの順位闘争期に犬の攻撃性が上がる振る舞いは、祖先系である狼にも見られる行動だ。ここで欧州圏の犬の研究者・関係者が勘違いしていると思われる以下のような解釈がある。

「狼は成長に伴い子離れの時期をむかえ、親元から立ち去り、単独で放浪しているうちに同じように放浪している単独の異性と出会い、新しく自分の群れを作る。そのきっかけが反抗期だ」

つまり狼は親元を離れて独立するが、人間に飼われている犬は、親である飼い主の元を飛び出して、勝手に自分の伴侶を探し自分の群れを作ることが出来ない、だからその反動が反抗期として現れるというものだ。これは同じ犬科でも本来単独で暮らすキツネの行動説明なら納得がいく。

なぜこの様な解釈がなされたかと言うと、欧州圏の犬学者の多くが、自分たちが観察しやすい欧州のオオカミを研究し、その欧州のオオカミの群れがごく小さいことから起こった勘違いではないかと思われる。なぜなら欧州のオオカミは牧畜の害獣、キリスト教における神の敵=悪魔の化身として何世紀ものあいだキリスト教徒からの迫害と虐殺に晒され、その淘汰圧によって変質してしまったからだ。つまり欧州のオオカミは小さな群れでコソコソ隠れて暮らさなければ生き延びることが出来無かった異常な個体群なのだ。さらに多くの観察例でキツネの観察記録が参照されている点も見逃せない。

一方で人間の悪影響をあまり受けていないと思われるホッキョクオオカミやモンゴルの狼では事情が異なる。子狼は成長に伴い、群れの中、特に兄弟間で順位闘争を始め、自分の順位を上げようと努力する。その結果、群れで協力して倒した獲物を兄弟より先に食べる権利=群れの中での優先権を手に入れる。つまり狼は本来群れの中で自分の順位を上げ、自らの生存確率を高めるという生存戦略を取る。おそらくはこれが犬の反抗期とされる振る舞いの原型だろう。

この狼の群れから出て行くのは、一腹子の中の優先権を確保できなかった下位の牡牝が多く、兄弟間で一位の狼はアルファに順ずる地位で群れにとどまり、親であるアルファが何らかの事情で死去すると、そのまま群れを率いるようになる。

つまり狼は順位を巡る闘争は行うが、それは兄弟姉妹間で行われることが多く、反抗期になって親に反発する人間の子供とは方向性が異なるのだ。

人間に飼われている犬も、実は人間の家族の中で順位を上げようと努力する。そのもっとも極端な時期が順位闘争期と言うわけだ。だから犬を擬人化して人間の子供の反抗期のように捉えてしまうと、犬の問題行動に正しく対処するのが難しくなってしまう。

人間の子供の反抗期は、一次も二次もある程度放置して子供が精神的に成長し、反抗心が収まるのを待った方が解決に結びつきやすいが、犬の順位闘争は放置すると問題が大きくなってしまう。なぜなら犬自身の認識として自分の順位が上がったと望ましくない学習が進むからだ。

ここまで書いて思ったのだが、僕自身は「犬の反抗期」であまり苦労した経験がない。理由は二つある。一つ目は僕が飼った犬の大半が成犬から飼った保護犬であり、順位闘争が終わった後に飼いはじめた犬だった。だから僕は犬の反抗期で苦労したくないなら、初心者には成犬から飼うことを勧めたい。特に大型犬の反抗期、獣猟犬種の行う順位闘争は初心者の飼い主の手に余ることがあり、犬を捨てるという最悪の選択の原因となってしまう。

もう一つの理由は「犬の反抗期」が実は犬にとっては「群れの中での順位闘争」であり、その目的は自分の生存確率を上げようとする若い犬の欲求に基づく行動だと理解して、幼少期から計画的に社会化を行い対処してきたからだ。

後者の対応を概念的に説明すると、犬に対して「あなたが一生子犬のままの立場でいても問題ない」と言うことを、飼い主が実体験を通じて繰り返し犬に示し続け、犬から見て「順位闘争を行うより、この親=飼い主に従っていた方が良いことがある」と学習を繰り返させたのだ。その結果、僕の飼ってきた犬たちはよそで飼われている同じ犬種に比べ子供っぽい振る舞いを見せる犬が多かった様に思う。

そんな風に僕は、犬を大人にならない狼の子のような存在と捉えてずっと付き合ってきた。なぜなら狼は群れの中での地位が安定していれば、一生群れにとどまり、親に付き従って生きていくからだ。さらに一生飼い主から独立せずに一緒に暮らし続けると言う生活パターンの確立が、犬という家畜を完成させたとさえ思っている。

そういうわけで僕は、犬を家族の中で低い地位に落ち着かせる手段として訓練と日常の犬の扱いを重視している。特に脚側歩行と脚側停座、さらに呼び戻しや持来の訓練を重要と考えて訓練してきた。これはネオテニーが進んだ洋犬であれば誰でも比較的容易に使える手段だと思う。

もちろん、そういう事情を理解できても、誰もが自分の犬の順位闘争をうまくさばけるとは限らない。だから僕は経験の少ない人には成犬から飼うことを勧めるわけだ。

すでに子犬から犬を飼い始め、反抗期で苦労している飼い主さんには、ふたつほど誰でも出来る対策をアドバイスしておきたい。

一つ目は 「餌の褒賞を使って訓練し、順位闘争の時期を過ぎるまで褒賞をケチらない」 と言うことだ。なぜなら成長途中の犬にとって餌の確保は最重要課題の一つだからだ。特に洋犬の場合は食いしん坊の犬が多いからなおさらだ。

プロの訓練士、特に優秀なトレーナーほど、訓練で使用する餌の褒賞(報酬)を徐々に減らすように飼い主を指導することが多い。もちろんこれは理にかなったことだ。特に訓練に反応した犬に対し、ランダムに餌の褒賞を減らしたり、もっと極端に犬がすばやく従った時だけ褒賞を与えたりすると、犬の訓練に対する集中力も高まり、コマンドに対する反応も良くなる。

やり方として子犬の訓練を始める当初に行う、連続強化(訓練に従えば毎回餌がもらえる)から、間欠強化(時々ご褒美)または固定比率強化(1/3ご褒美)と進み、変動比率強化(いつもらえるか分からない)と進めるのが望ましいとされる。だがそこにダブルスタンダードが絡むと犬は言うことを聞かなくなることがある。

だから常に同じ基準で犬に接する事が苦手な初心者の場合、餌を減らすのは意外に難しい。その結果、連続強化で訓練に従っていた犬が反抗期に入り、順位闘争を始めたタイミングで連続強化を止めてしまうと、犬は訓練に従っても餌がもらえない=良いことが起こらないと望ましくない学習をしてしまう。そのため訓練の強化どころか順位闘争=反抗を強めてしまうきっかけになりかねない。

だから餌を使って訓練を始めた犬の場合、順位闘争期を過ぎるまでむやみに餌を減らさないほうがいい。むしろ一日3食食べていた犬なら、1食分をご褒美に与えるくらいのつもりで、気前の良い飼い主=犬の親を演じていたほうが犬の反抗は押さえやすい。

ただし犬にねだられても安易に餌を与えてはならないし、褒賞の餌はごくわずかずつ与えるべきだ。重要なのは命令に従った犬に対する褒賞(報酬)としてタイミング良く与えるように注意することだ。

では自分の犬がおなかを空かせ、散歩の途中で餌をねだってきたらどうするか?答えは簡単だ。その場でスワレ・フセ・マテ、など犬が簡単に従える指示を出し、犬が従ってから餌の褒賞を与えるのだ。これならコマンドに対するご褒美なのでダブルスタンダードにはならない。

同じ理由から、順位闘争期にある若犬にむやみに罰を与えるのは避けるべきだ。理由は以下のような事情による。

  • 初心者では罰を与えるタイミングが難しいため犬が罰の意味を理解しにくい。
  • 不適切な行動の全てに罰を与えることは出来ないためダブルスタンダードになりやすい。
  • 殴打・蹴りなど犬が受け入れられない罰は犬に恐怖しかもたらさない。
  • 現実問題として罰では望ましい行動を教えられない。
  • 体罰により逆に恐怖を感じ攻撃性が増加する可能性がある。

最後の2つの理由で、飼い主に対していきなりな怒りを向ける犬もいる。極端な例では獣医師が行う予防接種の注射を何かの罰と勘違いし、診察台に乗り、獣医が現れ、条件がそろったとたん凶暴になる犬もいる。

こうした注意点は一般的な訓練の場合と大きく変わらないが、順位闘争期にある犬では特に注意が必要なわけだ。

反対に餌の褒賞を使った訓練、例えばルアー・トレーニングなどは順位闘争期ほど効果がある。理由として、

  • 命令に従う → 餌がもらえる、と言う仕組みは、犬の親が子に口移しで食餌を与えるのとほぼ同じ方法なので、親子関係が築きやすく犬の反応も強化されやすい。
  • 犬がたまたまとった自発行動に餌の褒賞を与えても行動が妨げられることはない。
  • 訓練に従った経験が餌の褒賞と直結するので、犬の集中力が落ちにくい。
  • コツさえ掴めば初心者でもほとんどの人が実行できる。

色々試したけど私の犬はどうも反抗的な態度を改めない、と言う飼い主さんもいることだろう。その場合は、まずその犬に最初に教えた一番簡単な訓練、スワレあたりからやり直してみて欲しい。それさえもうまく出来ないと言うのなら、あなたが行ったその訓練がまだ確実でなかった、完成していなかったと言うことだ。その場合はもちろん 「一から順にやり直す」 のが正しいやり方だ。

このように犬の順位闘争期=反抗期はあなたが犬に行ってきた訓練の完成度、さらにあなたが行った社会化のレベルを見直す良い機会でもある。冷静沈着に犬の行動を観察し、自分の訓練スキルを上げるチャンスと捉え、積極的に犬との関係強化に取り組んで欲しい。なぜなら順位闘争期を無事に乗り越えた飼い主と犬にはより深い主従関係が約束されているからだ。

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