「日本と海外の動物法を徹底比較する」シンポジウムレポート(1)

尾形聡子

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去る2月11日、一橋大学国立キャンパスにて、動物法フォーラム主催のシンポジウム『日本と海外の動物法を徹底比較する』が開催されました。1973年に動物保護管理法として制定された我が国の動物法は、2012年に3回目の法改正を経て現在に至っています。日本の犬や動物たちの未来そして動物福祉を考えていく上で、まずは日本に今ある法律を知っておくことはとても大切ですが、2年前に、『「改正動物愛護法の未来を考える」シンポジウムレポート(1)(2)(3)(4)』で紹介しましたように、日本での動物法のあり方を考える上で、諸外国の法律や事例から私たちは多くを学ぶことができます。

もうすぐそこまで春がやってきているかのような小春日和の一日、朝から夕方まで行われたシンポジウムには300名近くの方々が参加し、大学の大教室はほぼ埋め尽くされていました。動物法に対する人々の関心の高さがうかがえると同時に、半年ほど前から会の開催へと動き始め、当日の進行も切り盛りされていた大学生の方々の様子を目の当たりにし、若い世代の活動がさらに日本での動物福祉の向上へと繋げられていくことにも大いに期待できると感じた、とても有意義なシンポジウムでした。

開会の最初に、シンポジウム主催の動物法フォーラム世話人で、一橋大学大学院生の後藤一平さんより、シンポジウム開催の主旨についてのごあいさつがありました。

「海外ではペットの殺処分がゼロだとか、ペットショップでの生体販売が禁止されているなどといった情報が入ってきていますが、なぜそのような海外の法規制が日本で行えないのかと疑問に思われる方が大勢いらっしゃると思います。実際問題として、海外の法制度をそのまま日本に持ってくるのは難しい面がありますが、難しいからといって海外の法制度が参考にならないということでは決してありません。日本において、海外の法制度のどのような部分を参考にし、どのようなことを課題にするかといったことを、今回のシンポジウムを通じて考えていただければと思っております。」

第1部:日本と海外の動物法のしくみと運用はどうなっているのか?

シンポジウムの第1部『日本と海外の動物法のしくみと運用はどうなっているのか?』では法律や動物の専門家の方々の講演が行われました。弁護士の吉田眞澄さん(元帯広畜産大学副学長、ペット法学会副理事長)の基調講演『動物愛護管理法の変遷と外国法の影響』ではじまり、続いて諸外国の事例についての報告が行われました。英国の事例については獣医師の山口千津子さん(公益社団法人日本動物福祉協会特別顧問、東京都動物愛護管理審議会委員)が、米国の事例については米国および日本の獣医師である西山ゆう子さん(ミグノンペットクリニック)が、ドイツの事例については、当ブログのライターでドイツ連邦共和国の獣医師アルシャー京子さんが、最後に日本の事例については弁護士・司法書士の渋谷寛さん(ペット法学会事務局次長)がお話をされました。

第1部の英国、米国、ドイツ各国における動物保護の状況につきましては過去記事の『「改正動物愛護法の未来を考える」シンポジウムレポート』も是非ご参考にしていただければと思います。それを前提に、新たな情報や講師の方々の考えや想いをご紹介していきます。

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基調講演:『動物愛護管理法の変遷と外国法の影響』

動物法の権威として知られる吉田眞澄さんは、現在弁護士として、動物愛護管理法にまつわるさまざまな講演会やシンポジウムでのご講演を中心にご活躍されています。

「1998年のペット法学会を立ち上げの際、ペット法学会の掲げる旗印に関連し"人と動物の共生"、特に"人とペットの共生"が議論されました。今では当たり前のように使われていますが、実はこれは私のつくった造語なのです。獣医学を中心とする自然科学系の人にとって従来の"共生"の概念からはみ出すため、新鮮な言葉に映りはしても、受け入れがたいところもあり、最初は強く反対されました。私からすると、人の心に与える影響を考慮すると飼い主とペットの間には双利共生の関係が存在し、全体的な人とペットの関係も、前者ほど明確でないにせよ緩やかな"共生"関係が成り立つと考えたのです。最終的には、反対をしていた人達の同意を得て"人とペットの共生に関する調査研究と成果の社会還元"がペット法学会の目的とされました。この言葉は、日本の動物愛護管理法の変遷とも大きなかかわりを持ってきました。」

今をさかのぼること40年以上前の1973年、日本初の動物法は、動物保護管理法という名称で制定されました。

「制定当時の日本は、動物虐待が横行する、先進国にあるまじき国として諸外国から見られていました。さまざまなジャパンバッシングを受けていたこともあり、出発段階で海外の目を非常に気にしていたという背景があります。ですから、日本国内でどうするかということもさることながら、日本の動物法が海外からどのように受け止められるかが最重要の視点だったのです。」

現在の動物愛護管理法は実質的に65カ条から成りますが、出発当初は13カ条の非常にシンプルな法律でした。

「最初はとても小さな法律ではありましたが、現在の法律の骨格は揃っていました。動物保護管理法の対象動物として牛や馬などの産業動物や実験動物が含まれていた点には注目すべきだと思います。小さな法律でありながらも、動物保護法としては最も純粋な形の法律だったといえるでしょう。」

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1973年の法制定の後、1999年、2005年、そして2012年と3回の法改正が行われてきました。1999年の第一次法改正では、名称が動物保護管理法から動物愛護管理法に変わり、人と動物の共生という言葉が条文の中にくわえられ動物愛護管理法のペット法化が進み始めたのですが、吉田さんは実際にそれを推進した方々の中のひとりだったそうです。

「私の読みは、まず、ペットについて徹底的に愛護を進めていけば、それとの比較で産業動物等ほかの動物の福祉の問題も引っ張られて前に進むに違いないと考えたのです。法改正により、ペット動物の愛護管理に関する規定が増え、軸足がそこに置かれましたが、東日本大震災の状況をみると、未だに産業動物の福祉に影響を与えてはおらず、動物愛護管理立法という形で産業動物に対応することができないままの状況が続き、特にヨーロッパの動きに注目していたのですが、わが国の動きは随分違っています。」

所管がペット(環境省)と産業動物(農林水産省)とで異なっているという国の制度もまた、動物愛護管理法が産業動物に手をつけにくい主要な原因になっています。

「また、海外の動物法やさまざまな情報が断片的に入ってくるのですが、受け入れるべき制度があっても、日本の法体系や国の仕組みとの関係で、簡単に受け入れられない様々な事情がからんでくるという課題をずっと抱え続けてきていると思っています。産業動物の福祉の遅れ、後で触れる罰則適用の手続き上の問題はその典型例です。ただ、1973年ごろと比べれば、この問題についても変化の兆しは感じます。断片的な知識を体系的なものにしていくためには、一方で、動物愛護管理法を中心とした日本の動物法の体系化を視野に入れながら、海外の法律や情報をひとつひとつ点検し、体系のどこのどの部分に、また、どのように利用するかが重要な課題になります。今ある海外の法律情報の中で、日本の法律と比較対照するのに非常に重要になる法律は、2006年に制定された英国の動物福祉法になります。動物愛護管理法と英国の動物福祉法は、条文数で実質的に変わりないのですが、内容面では非常に大きな開きが有ります。英国の動物福祉法は、規制、裁判、執行に至るまで、法律に完結性があり、法律の運用がしやすい状況があるのです。狂牛病対策で後れをとった失敗は二度と繰り返さないとして創設された DEFRA(Department for Environment, Food and Rural Affairs:環境・食糧・農村地域省)が作った法律であることが幸いしたと言えます。あるいは、動物福祉の歴史と国民の意識の差と見ることもできます。」

動物法に限らず、そして、英国に限ったことでもありませんが、比較法は二国間の法律をただ比較するだけではなく、法律の背景にある国の歴史や現在の体制、社会背景等を含めさまざまな事情を比較検討し、その上で日本にどのように取り入れることができるのかを体系的に考えていく学問であり、その点がとても重要とされているそうです。

「厳密にいえば法制度ではありませんが、英国王立動物虐待防止協会(RSPCA)のインスペクター(動物査察官)という制度は、状況によっては日本にうまく取り入れられる可能性があると思います。広い意味で、このようなものも含めて比較法制度学ないし比較法制度論と考えてよいのではないかと思っています。」

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第一次改正では、いわゆる酒鬼薔薇事件が法改正の契機になったこともあり、虐待や遺棄などに対する罰則(罰金・科料)の大幅な引き上げが行われたことも大きな変更点でした。しかし、罰則が厳しくされたとはいえ諸外国と比較すればまだまだ重くする余地は残っており、第二次、第三次の法改正によりさらに罰則の強化が行われることになりました。

そうして今や殺傷型の動物虐待は2年以下の懲役または200万円以下の罰金に、ネグレクト型の虐待は100万円以下の罰金が科せられることになりましたが、法律上では罰則そのものは強化されたものの、日本はそれを適切に運用するための社会的な仕組みがかなり脆弱であることが問題といえるそうです。ではその問題を克服するためにまず行うべきは、どのようなことなのでしょうか。

「法律を変えずにどこまでできるのかを考えることがひとつの大切な視点だと思います。法律を変えずに今の枠組みの中でできることから始め、実績を重ね、徐々にレベルアップする。とことんやっても法律との関係で限界が有れば、法律を改正する。そこまですれば、法律のどこをどう変えなければならないかもよく分かり、立法がしやすくなるという利点もあります。」

虐待・遺棄の問題のひとつは警察の協力体制があるといいます。警察がもう少し動いてくれれば、現状が変わると考える人は多いと思いますが、警察からすれば他にやるべきことが山ほどあり、動物虐待・遺棄より重い犯罪が優先されるべきとの姿勢があります。動物を優先すれば、それを批判する人は多いはずです。

「現状からすると、日本では虐待・遺棄の規定がありながら、速やかに裁判手続きまで進める状況にないのです。そこを民間が補えないか、そう考えたとき、真っ先に思い起こすのが、先に挙げた RSPCA のインスペクターの制度です。」

民間で行うには法律上での限界はあるものの、それでも仕組みがあるのとないのとでは抑止効果を含めて大きな違いが生じてくるはずだと吉田さんはいいます。

「虐待や遺棄に関していえば、刑事訴訟法第239条第1項で国民すべてに認められる告発権を活用できる仕組みを作るのが現実的です。基本的人権等とのかかわりもあり、慎重に事を進めなければなりませんが、非常に大切な視点です。また、今日のシンポジウムの隠れたテーマとして、昨年末に相次いで起こった犬の大量遺棄事件があります。現実に起き、将来的にもそのような問題が起こる可能性が非常に高いと思っています。そのひとつの要因としては行政にも責任の一端があるのではないかと考えていますし、さらに根本を辿れば、動物愛護管理法の中にもその要素があるといえるでしょう。そのような事態に迅速かつ適切に対応するためにも、そのような民間主導の仕組みは効果を発揮できるはずです。」

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今の日本の動物愛護管理法が抱える課題のひとつは、法律の成熟度であるといいます。

「現在の動物愛護管理法は実質65カ条の条文でできています。先に指摘したイギリスの動物福祉法は川上から川下の海まで対応可能な体系を有していますが、条文の数は動物愛護管理法とほとんど変わらない69 カ条です。日本の動物愛護管理法には贅肉が多いのに比べ、イギリスの動物福祉法は、スマートかつ必要な物はしっかり備えているのです。一言でいえば、それが成熟度の違いです。」

「これからの法改正は感情論だけでは絶対にうまくいきません。3回の法改正の中で立場違う人が妥協できる点は妥協しきってしまったので、これからの法律改正は、回を重ねるごとに利害の対立は厳しさを増すからです。しかし、日本でやるべきことはまだたくさんあります。国内固有の問題を取り上げても、外国の制度を持ちこむにも、また、立法のみならず、運用、解釈の場面でも、さらに、法律に基づいて社会の仕組みを作り上げていくときも、考えなくてはならないことがたくさんあります。何度も繰り返しますが、比較法というのはただ単にある法律を比較するだけでなく、その背景すべてを比較の対象にしながらどうすべきか考えていく学問です。比較法学の視野を広げ、考えを深めること、そしてともすれば学問的関心に偏りがちな比較法学に実社会で役に立つ実用法学の視点を注入することが、今後の動物愛護法を巡る様々な課題克服のためには非常に重要になることは間違いありません。」

動物愛護管理法がしっかり機能する社会になるためには、法律の専門家ではない一般市民の動物に対する意識が成熟していくことが必ずや必要であると思います。そしてそれが、法律が成熟していく際の大きな後押しのひとつとなっていくのではないかと感じたお話でした。

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