知っておこう!犬の遺伝、遺伝性疾患について(3)

尾形聡子

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日本畜犬遺伝性疾患協会 / IDIDA JAPAN 主催による『犬の遺伝性疾患セミナー2014』レポート最終回の今回は、この10年間に話題となった遺伝病の数々を紹介いたします。セミナーレポート1回目2回目に続き、講演をされたのは、神奈川県にある相模大野プリモ動物病院の院長、獣医師の玉原智史さんです。

この10年で話題になった遺伝性疾患

セミナーでは、この10年で話題になったいくつかの遺伝性疾患についての説明がありました。以下に簡単に紹介いたします。

【中枢神経系の遺伝性疾患:神経セロイドリポフスチン症】

「神経セロイドリポフスチン症はちょうど10年前くらいに話題になった遺伝性疾患で、特にボーダー・コリーではものすごい勢いで認知されるようになりました。四肢の震えや痙攣、ハエ噛み行動などの症状がみられる進行性の神経疾患です。問題なのは治療方法がないことで、最終的には死に至ってしまいます。」

この病気については、『犬のゲノム研究が明らかにしてきたこと (4) - 神経セロイド・リポフスチン症のメカニズム解明・治療へ向けて』も参照していただければと思います。

「犬種によっては原因遺伝子が同定されているため、遺伝子検査を受けることが可能です。急速に知名度は広まりましたが、日本でこの病気を発症したボーダー・コリーは20頭もいないという報告があります。ただし、発症個体が少ないとはいえ亡くなってしまう病気であることは、とても大きな問題です。」

【中枢神経系の遺伝性疾患:変性性脊髄症(DM)】

「この2~3年で大きな話題となっているのが、変性脊髄症、DM(degenerative myelopathy)と呼ばれる病気です。この病気も進行性の神経疾患で、発症年齢は6歳くらいからになります。ボクサー、ジャーマン・シェパード、ウェルシュ・コーギーなど多くの犬種がこの病気を発症します。後肢の麻痺から始まり、前肢の麻痺、呼吸障害を起こして最後は亡くなってしまう病気です。」

MRI 検査を行っても明らかな異常が認められないことが多く、ヘルニアなどの椎間板疾患との併発があると診断するのが非常に困難になるそうです。

「この病気に罹っていますと、ヘルニアで手術をしたとしても回復しないケースに陥ることがあります。リハビリを行うことで進行スピードを多少遅らせることができるという報告はありますが、現時点では決定的な治療方法はありません。」

DM は、SOD1(Superoxide disumtase 1)という遺伝子の変異が発症の原因となり、常染色体性劣性遺伝形式をとることが報告されています。

「この遺伝子変異はボクサーとコーギーに非常に多くみられます。遺伝子の変異を持つ個体が7割、発症してもおかしくない個体が5割以上います。ただし、この遺伝子異常を持つ個体がすべて発症しているわけではないので、SOD1遺伝子の変異以外に、別の遺伝的な要因や環境要因が発症に関わっていると考えられています。まだ原因については曖昧なところがありますが、SOD1遺伝子の変異だけでもブリーディングによって将来的に減らしていければ、発症する個体も確実に減ると思います。この点をブリーダーの方にはしっかりと認識していただきたいと思っています。」

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【遺伝性止血異常症:フォンヴィレブランド病】

「フォンヴィレブランド病は犬で最も多い遺伝性の出血性疾患です。止血に必要なフォンヴィレブランド因子の量的な低下または欠損、質的な異常が原因となっていますが、タイプが3つに分類されています。」

タイプ1はフォンヴィレブランド因子の量が部分的に減少しているもので、タイプ2はフォンヴィレブランド因子の量はほぼ正常なのですが、多量体形成が減少するという質的な異常がみられます。タイプ3はフォンヴィレブランド因子が完全にない状態で、最も重症になります。

「タイプ1はフォンヴィレブランド因子の量が正常の約20~30%ですが、それほど症状は厳しくありません。最も多いのがタイプ1でさまざまな犬種に発症しますが、とくにウェルシュ・コーギーに多く見られます。私が以前ウェルシュ・コーギー23頭を対象に遺伝子検査を行ったところ、変異/変異という遺伝子型を持つものが23頭中4頭(約17%)、変異/異常という遺伝子型が7頭(約30%)、正常/正常が12頭(約52%)という結果になりました。アメリカの検査会社が公表した数字ですと、それぞれ6%、37%、57%となっており、ほぼ同じような値となっていることがわかりました。また、変異遺伝子の頻度から、10~20頭に1頭のコーギーがフォンヴィレブランド病に罹っていることが示されています。」

ただしタイプ1は通常の生活を送るにはなんら問題はなく、問題になるのは怪我をしたときに血が止まりにくい状況におちいることだそうです。そして、なによりも気を付けなくてはならないのは、不妊去勢などの手術をするときになります。

「今は医療も良くなり、出血多量で命を落とす事故に繋がるようなことはそう起こりませんが、とりわけコーギーの飼い主さんは注意しておく必要のある病気です。また、変異遺伝子を持つコーギーの割合が高いので、ブリーディングをする際にはその割合を減らしていくようにしていくことも大切だと考えています。」

【遺伝性止血異常症:血友病】

血友病は血液を凝固させるために必要な因子が欠失している病気です。因子の種類により、血友病A(第VIII因子)と血友病B(第IX)に分類されています。

「血友病はひどい出血を起こす病気です。たとえばワクチンを打ったところから出血し、そのまま止まらずに出血多量で死んでしまうこともあります。」

血友病Aも血友病Bも、X染色体上にある遺伝子の変異が原因となる、伴性劣性遺伝形式をとる病気です。つまり、ほぼオスにのみ発症する病気で、メスは発症せずにキャリアとなります。

「出血さえ起こさなければ普通の生活を送ることができるのですが、出血してしまうと死に至ることもある病気ですので、若いときから血が止まりにくい、関節が腫れているなどの症状がオスにでている場合は要注意です。」

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【眼の遺伝性疾患:進行性網膜委縮(PRA)】

PRA は網膜が進行性に変性し、視力が徐々に低下して失明に至る遺伝病です。

「命を奪われることはありませんが、目が見えなくなるという点で、PRA は生活の質を大きく下げる可能性のある病気です。ひとことで PRA といってもタイプがたくさんあり、遺伝様式や原因となる遺伝子も異なります。」

この病気について詳しくは、『愛犬の目の変化に気づくために~網膜編(4)』をご参照ください。

【眼の遺伝性疾患:コリー眼異常/脈絡膜形成不全(CEA/CH)】

「病名にありますようにコリー犬種に多く発症する病気です。母犬のお腹の中で成長する過程で、眼球を形成する膜のひとつ、脈絡膜が正常に発達せずに形成不全をおこします。形成不全は部分的なものなので、この先天的な異常だけならば目も見えますし、症状もほとんど現れてきません。ただし、網膜剥離を続発してしまうと、そのために視覚が低下しますので、そうなった時点で初めて病院へ行くことになるケースが多いです。逆をいえば、網膜剥離などを続発しなければ、臨床症状がみられないまま一生を過ごすこともあります。」

コリー眼異常は常染色体性劣性遺伝形式をとる病気です。また、原因となる遺伝子変異が分かっているため遺伝子型検査を受けることができます。

「以前、コリーのブリーダーさんにご協力いただき、臨床症状のない38頭について検査を行いました。その結果、36頭が発症個体(変異遺伝子をふたつ持つ)で、眼底検査により脈絡膜の形成不全も確認されました。残り2頭のうち1頭はキャリア(変異遺伝子をひとつ、正常遺伝子をひとつ持つ)、もう一頭は正常個体でした。アメリカでは、コリーの70%くらいが発症しているとの報告があります。これだけ発症個体が多いのは、この病気は目に見える形での症状がでないために発症個体でも繁殖に使用してきたという経緯があるためと思います。つまり、病気の制御がなされていない状況だともいえます。」

さらに、新しい研究では、コリー眼異常が北海道犬で確認されたという報告がされています。原因となる遺伝子の異常もコリー犬種とまったく同じものだったそうです。

「コリーと北海道犬は全く系統の違う犬種ですから、もしかしたら、みなさんが気付かないだけであって、コリー犬種だけに特徴的な病気ではない可能性もあるかもしれません。」

***

もはや遺伝病は犬にとって一般の病気ともいえるような状況にすらあることを、犬と暮らす我々がしっかりと認識しなくてはならない状況になっていると感じます。遺伝病を減らしていくためには、繁殖に関わる人だけでなく、犬を迎え入れる側の人たちの遺伝病に対する意識が高まることも必要だと感じます。犬種ごとにかかりやすい遺伝病、そして、検査可能な遺伝病があることを知っていれば、新しく犬を迎え入れようとする際には遺伝病についての知識を持つブリーダーの方を選んだり、検査をきちんと受けている親犬であるか確認したりするようになると思うのです。

つまり、病気を発症しない遺伝子型を持つ犬を選ぼうとする人が増えていけば、おのずと繁殖する側の人々の遺伝病に対する意識も高まらざるを得ず、犬に広がっている遺伝病を減らしていくことに繋がるのではないかと思います。犬の遺伝病は減らしていくことができ、発症を防ぐことができるものだという意識がもっと広まることを願っています。

【関連記事】
知っておこう!犬の遺伝、遺伝性疾患について(1)
知っておこう!犬の遺伝、遺伝性疾患について(2)

 

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