知っておこう!犬の遺伝、遺伝性疾患について(2)

尾形聡子

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日本畜犬遺伝性疾患協会 / IDIDA JAPAN 主催による『犬の遺伝性疾患セミナー2014』レポート2回目の今回は、遺伝子検査のお話を中心にお伝えいたします。前回に続いて講演をされたのは、神奈川県にある相模大野プリモ動物病院の院長、獣医師の玉原智史さんです。

遺伝子検査とはどのような検査なのか?

「遺伝子検査では、ゲノムDNA を解析することで、細菌やウイルスなど自己に存在しない外来遺伝子があるかどうかを判定することができます。最近問題となっていますデング熱やエボラ出血熱を検出する方法としても利用されています。ほかには、疾患や機能異常、さまざまな形質に繋がる遺伝子の異常や多型があるかを調べることができます。遺伝性疾患の検査では、遺伝子の変異の有無とその組み合わせを調べ、遺伝子型(両親それぞれから受け継いだ遺伝子のタイプの組み合わせ)を決定します。ですので本来は、"遺伝子型検査"というのが正しい言い方になります。」

では実際に検査ができるのはどのような病気になるのでしょうか。

「基本的に、検査の対象となるのは単一遺伝性疾患です。現状では2つ以上の遺伝子が関与する多因子性疾患を完全に判別することは難しいのですが、関与する遺伝子の一部を検査することで、その個体が特定の病気を発症しやすいかどうかは判断できるようになってきています。」

検査を行うためには、遺伝情報が刻まれている DNA が必要となります。

「DNA は核と呼ばれる細胞の小器官の中にあるため、検査をするには核を含む細胞を採取してもらう必要があります。核を持たない細胞は赤血球と血小板くらいしかありませんので、核のある細胞を採取するのはとても簡単です。口腔内粘膜を綿棒でこするだけで細胞を採取することができますし、わずかな血液でもサンプルになります。」

検査では、採取した細胞を用いて目的に応じた方法で遺伝子検査を行い、遺伝子型を判別していくのですが、実際に検査を利用する際には注意すべきことがあるといいます。

「遺伝性疾患はあくまでも特殊な疾患ですので、それを診断するためだけのツールでしかないということを認識しておいてください。単一遺伝子性疾患の場合には、遺伝子の異常が必ず症状や病態と一致しなければならないことが基本原則です。しかし最近では多因子性疾患も遺伝病とされているため、必ずしもそうとは限らないこともあります。」

また、同じ病気であっても、犬種が異なる場合には気を付けなくてはならないことがあります。

「犬種をこえて同じ遺伝子異常が同じ病気の原因となることもあります。しかし、臨床的に同じ症状や状態を示し、同じ疾患と診断される場合でも、犬種が異なれば原因となる遺伝子の異常も異なることも多いのです。このように、遺伝子異常が異なる可能性がある病気については、検査会社が提供している犬種以外の犬種を検査しても、正しい結果を得ることができないばかりか、お金も時間も無駄になってしまいます。遺伝子検査を受ける際は、この点について必ず注意するようにしてください。」

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遺伝子検査をするためのサンプル採取の方法などを説明するブースが作られていました。

遺伝子検査の利用目的

特定の遺伝性疾患について遺伝子検査を行った場合、その結果はどのような形で利用することができるのでしょうか。

「利用目的は大きく4つあり、1)病気を確定させるための利用2)発症前診断をするための利用3)未発症キャリアを判定するための利用4)遺伝子型頻度・疾患遺伝子頻度を調査するための利用、になります。」

まずは1と2について、次のような説明がありました。

「まず確定診断法としての利用ですが、これは獣医師のための利用方法になります。品種や性別、年齢、特徴的な症状や検査所見から、既知の遺伝性疾患であるかどうかを確定するものです。つぎに、発症前診断法は、進行性網膜委縮(PRA)や蓄積症など、生後数ヶ月~数年間無症状である遅発性・晩発性の疾患について、発症する前に診断するための利用方法です。繁殖を行う前に利用する場合もこのケースになります。また、特定の状況になって初めて問題になる疾患を抱えているかどうかを事前に知ることもできます。フィラリアなどの寄生虫の駆虫薬を使うときに問題となるイベルメクチン高感受性や、怪我をしたときに問題となる出血性の病気、フォンヴィレブランド病などがこれにあたります。この利用方法としては、発症前に診断しておくことが重要になります。」

3の未発症キャリアを判定するための利用は、ブリーディングを行う上で最も大切な利用目的であるといいます。

「遺伝病で問題となるもののほとんどが劣性遺伝性疾患ですので、ブリーディングをする際に未発症キャリアを判定するためのとても重要な利用方法になります。とりわけ、致死性であったり QOL(生活の質)を著しく下げるような遺伝性疾患の場合は、発症する個体を出さないようにするために、病気のキャリアかどうかを知っておく必要があります。再生治療も含めて遺伝子治療は、現時点では動物への利用としては実用段階になっていませんので、治療よりも発生の予防が重要になってくるのです。そのためには未発症キャリアを把握した繁殖を行うことがカギとなります。」

4つ目の目的、遺伝子型頻度・疾患遺伝子頻度の調査をするためには、日本国内でのサンプル数を集めることが大切になってきます。

「検査データをもとにして、集団の中での疾患遺伝子を持つ割合(遺伝子頻度)を調査することができます。そこから、特定の遺伝子型を持つ割合(遺伝子型頻度)や疾患の発生頻度を推定することもできます。たとえ同じ犬種であっても、海外での遺伝子頻度と日本とでは合致する場合もあれば異なる場合もあります。たとえば仮に疾患遺伝子を持つキャリアの繁殖犬が2頭、海外から日本に入ってきた場合には、国内で疾患遺伝子が広まる可能性が高まりますが、逆に、たまたまそれが疾患遺伝子をまったく持たない2頭であれば、海外よりも日本の方が疾患遺伝子頻度が低くなる場合もある、ということです。」

遺伝子型頻度や遺伝子頻度は、各疾患への対応の仕方の目安にもなります。

「遺伝子頻度の高い疾患については、全頭検査をするなど集団全体に対して対応を取らなくては病気を減らしていくことはできません。遺伝子頻度の低い疾患の場合には、発症個体の家系を検査するなどの個別対応をしていく必要があります。また大まかにですがいえば、遺伝子頻度の高い疾患の方が重症度の低い病気が多く、遺伝子頻度の低い疾患の方が重症度の高いものが多くなっています。」

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遺伝子検査による遺伝病の制御

「遺伝子型検査が可能な遺伝病は病気を制御していくことができます。発症個体やその近縁の個体、また、全個体の遺伝子型検査をすることで、発症個体が発生しない交配をすることができるからです。そうすることで、最終的には疾患の原因遺伝子を淘汰することができます。」

病気の遺伝子を淘汰していく上でひとつ大きな問題になることがあるといいます。それは、遺伝病の大半を占める、常染色体性劣性遺伝形式をとる疾患でのキャリア犬の扱いについてです。

「キャリアであることが確定した場合、キャリア犬は交配に用いていいのか、それとも駄目なのかが問題となります。基本的に、発症犬やキャリア犬同士の交配(発症×発症、発症×キャリア、キャリア×キャリア)は発症犬を生み出す可能性があるため絶対に避けなくてはなりません。」

では、キャリア犬と正常犬との交配はどうなるでしょうか。

「キャリア犬と正常犬とを交配すると、キャリアと正常が1:1、それぞれ2分の1の確率で生まれてきます。キャリアが生まれてくる可能性はありますが、発症犬が生まれることはありませんので、この組み合わせは可能な交配のひとつと考えていいと思います。ただしその後、キャリア同士の交配を避けるために、生まれた犬の遺伝子型検査を必ず行い、キャリア判定をしなくてはなりません。ちなみに発症個体と正常個体の組み合わせでの交配は基本的には考えにくいものではありますが、生まれてくる犬はすべてキャリアになります。」

もちろん正常個体同士で繁殖できるのがベストではありますが、繁殖する際の指針は遺伝子頻度によっても変化します。

「遺伝子頻度が低く、発症率の低い遺伝病の場合、キャリアは淘汰していくという考えで繁殖を行っていいと思います。しかし、遺伝子頻度が高く、発症率の高い遺伝病の場合は、キャリアを完全に繁殖から除いて発症個体とキャリアを急激に淘汰すると、これまでに築きあげた望ましい形質が失われる可能性や新たな遺伝病が発生する可能性がでてきます。いい形質は残し、且つ、悪い形質は確実に減らしていくのがブリーディングの極みだと思いますので、遺伝子頻度の高い遺伝病で、遺伝子型検査ができる場合には、徐々にキャリアを減らしていくという考え方で繁殖を行うことが重要になってきます。」

では、遺伝子型検査が不可能な遺伝病の場合には、どのようにして病気を制御すればいいのでしょうか。

「繁殖に用いようとしている個体の家系図を見ることが大切です。その個体が病気を発症していなくても、親や兄弟など近縁に発症している個体が多いほど、繁殖に向いていないといえます。」

最近検査可能となった多因子疾患の検査の利用価値は、単一遺伝子性疾患とは多少異なってきます。

「疾患感受性遺伝子のタイプを判定することで、発症の可能性を知ることはできますが、他の未知の遺伝子や環境の影響も受けるため、単一遺伝子性疾患と比べると検査の利用価値は若干低いともいえます。また、検査できる遺伝子が病気の発症にどの程度かかわっているか、その病気の重症度が高いか低いかによっても、利用価値がかわってきます。」

動物の遺伝性疾患を解析する意義

「なぜ動物の遺伝性疾患の解析をするのか?ということについては大きく2つの意義が挙げられます。ひとつは動物の福祉の向上です。病気の原因となる遺伝子を解明し、遺伝子型検査の開発をし、計画的な繁殖を行うことで発症を予防していくためです。また、病態を解明していくことで新しい治療法への開発へと繋げていくことができます。もうひとつは医学、基礎生物学への貢献です。これは飼い主の方やブリーダーの方が直接的に関与するはないかもしれませんが、動物は人の疾患モデルとなることが分かってきています。」

そして最後に、動物の遺伝性疾患を研究していく上での将来的な展望について、次のようにお話されました。

「将来的に、遺伝性疾患別にガイドラインを設定していくことが望まれます。遺伝形式、重症度、遺伝子頻度、犬種、遺伝子型検査ができるかどうかといった点からみても、それぞれの疾患への対応は異なってきます。もうひとつは遺伝子検査のガイドラインです。医学領域では個人情報の流出や、浸透度(発症への関連の強さ)が示されていないために、過度の不安や期待を扇動してしまったり、誤解を招いたりすることが起きています。これらのことが獣医領域においても問題になる可能性が考えられますので、検査を提供する側もこの点を認識し、遺伝子検査のガイドラインを作成することが大切だと考えています。」

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