知っておこう!犬の遺伝、遺伝性疾患について(1)

尾形聡子

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秋も深まり始めた10月19日、新宿の高層ビルのなかにあるセミナールームにて、日本畜犬遺伝性疾患協会 / IDIDA JAPAN 主催による『犬の遺伝性疾患セミナー2014』が行われました。2008年 に設立された IDIDA JAPAN は、犬が健康に生活していくためのひとつのあり方として、遺伝子検査や獣医師やブリーダー、一般の方々に向けての情報発信などを通じて日本国内に蔓延している犬の遺伝性疾患をなくしていくための活動を行っている団体です。

今回のセミナーでは3人の獣医師による講演が行われました。第一部では遺伝や遺伝性疾患についての全般的なお話が、第二部では変性性脊髄症(DM)と進行性網膜委縮症(PRA)それぞれの遺伝性疾患について、臨床獣医師向けの専門的なお話がありました。今回ここでは、最初に行われました、一般の方にも役立つ犬の遺伝や遺伝性疾患についての基礎的なお話を紹介したいと思います。

『犬の遺伝子・遺伝性疾患について』

『犬の遺伝子と遺伝性疾患について』の講演をされたのは、神奈川県にある相模大野プリモ動物病院の院長、獣医師の玉原智史さんです。玉原さんは、イギリスの BBC が制作したドキュメンタリー「犬たちの悲鳴~ブリーディングが引き起こす遺伝病~(原題:Pedigree Dogs Exposed)」を NHK で放映する際の監修もされています。

「遺伝というと、なんだか難しそうだ、とっつきにくそうだと敬遠されてしまいがちなのですが、今回の講演を聞いていただき、遺伝や遺伝病について考えていただけるきっかけが少しでも増えることを願っています。」

遺伝や遺伝子といったものは肉眼で見て確認し、理解できるようなものではないため、なかなかイメージしにくいものと思います。そもそも、遺伝とはどういうものなのでしょうか。

「遺伝とは単純に、親から子へ伝わる現象のことをいいます。もう少し細かくみると、ひとつの生命体の中で起こる細胞分裂の際に伝わる情報であり、その情報は DNA の配列により決まっています。つまり、体はDNAによって決められているものです。」

DNA の中には、体を決める設計図としての遺伝子が存在しています。遺伝子が翻訳されてタンパク質がつくられ、タンパク質が集まり細胞となり、細胞の集合体が組織となり、組織が組み合わさって体ができています。

「この流れの一番最初にある数多くの遺伝子が、最終的には体を決めているということになるのです。」

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病気の発症と遺伝

「世の中にあるほとんどの病気に遺伝が関与しています。関与の仕方は病気によって大きなものもあれば小さなものもあります。」

病気は、発症原因となる遺伝的素因と環境要因との関わり方によって大きく3つに分けられます。

「狭義の意味での遺伝性疾患である単一遺伝子疾患です。遺伝と環境の両方の影響を受けるのが多因子性疾患と呼ばれ、アレルギーや糖尿病、骨格異常、生活習慣病といわれる病気などがこれにあたります。最近は、単一遺伝子疾患だけでなく、この多因子性疾患も含めて遺伝性疾患とされています。そして三つ目は、交通事故など遺伝がほとんど関与しない物理的疾患になります。」

さらに遺伝性疾患を細かく見ると、4つのカテゴリーに分けられます。

「まずひとつ目は先ほどもでてきました、単一遺伝子疾患になります。単一遺伝子疾患は、ひとつの遺伝子の変異が遺伝され、それによって直接病気を発症します。その原因となる遺伝子のことを疾患原因遺伝子といいます。」

たったひとつの遺伝子に問題があるかどうかで、病気を発症するかしないかが決定されるのが単一遺伝子疾患ということになります。

「遺伝性疾患のふたつ目は多因子性疾患になります。ひとつの遺伝子だけではなく、複数の遺伝子が病気の発症に関与しているのですが、必ずしもその遺伝子のすべてに異常があるわけではありません。個人個人の持つ遺伝子には個性ともいえるようなわずかな差があり、それらが組み合わさることで発症することがあるのです。また、環境要因も原因の中に含まれます。」

そのほかに、染色体異常とミトコンドリア遺伝子異常がありますが、いずれも犬の遺伝性疾患の中では特殊なものになるそうです。

染色体異常は、染色体の構造の異常や本数の異常によって引き起こされる病気です。人の例ではダウン症がこれにあたります。動物の場合は、三毛猫のオスは染色体の本数の異常(XXY)が原因であることが分かっていますが、これ以外に動物の染色体異常の病気は知られていません。ミトコンドリア遺伝子異常はミトコンドリア DNA 上の遺伝子の異常が原因となる病気で、人では問題となっているのですが、現時点では伴侶動物においてこの病気は確認されていません。」

遺伝性疾患を引き起こす遺伝子に異常がある場合、親から子へどのように伝わり病気が現れるのか、そして、異常のある遺伝子がどの染色体上にあるかによって、遺伝形式の呼び方が異なります。犬の染色体は、性を決定するXとYの性染色体と、38本の常染色体があります。各個体は、両親からそれぞれ1本ずつ受け渡された性染色体2本と(メスはXX、オスはXY)、常染色体を2本ずつ持っています。

常染色体上にある遺伝子に異常がある場合、性染色体上にある遺伝子に異常がある場合、また、異常がある遺伝子が優性の場合と劣性の場合との組み合わせがあり、単一遺伝子病の場合には、常染色体劣性遺伝、常染色体優性遺伝、伴性劣性遺伝、優性劣性遺伝のいずれかの遺伝形式をとることになります。

常染色体性劣性遺伝形式の場合、異常な遺伝子をふたつ持つことではじめて発症します。それ以外(1本持つ場合となにも持たない場合)は発症しません。いま、遺伝性疾患の中で問題になっているもののほとんどが常染色体の劣性遺伝形式をとるものです。発症していないものの病気の原因となる異常な遺伝子を1つ持つ個体をキャリアといいますが、キャリアを制御することができていないため、病気がなかなか減っていかない状況にあるといえます。つまり、キャリアを制御することが、この遺伝形式をとる多くの病気をなくしていくために重要になってくるのです。常染色体性優性遺伝形式は、異常な遺伝子を1つ持つだけで発症します。」

性染色体上に存在する遺伝子が関係する伴性遺伝形式をとる病気は、犬ではそれほど多くありません。

「X 染色体上にある遺伝子異常による病気がほとんどで、Y 染色体上にある遺伝子が関係する病気は獣医領域では報告されていません。伴性遺伝形式にも優性と劣性がありますが、伴性劣性遺伝形式をとる場合、例外的な繁殖の組み合わせを除いては基本的にオスしか発症しません。伴性優性遺伝形式の場合にはいずれの性でも発症します。伴性遺伝も常染色体性と同様に、問題となるのは劣性遺伝形式をとるものです。代表的なものとしては血が止まらなくなる病気の血友病がこれにあたります。」

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犬の遺伝病は加速度的に増加している

遺伝病についての社会的なイメージは、近年次のように変化してきているそうです。

「以前は、狭義の遺伝病である単一遺伝性疾患や染色体異常の病気、生まれつき(先天性)の病気というイメージが持たれていたと思います。ただし現在は、人においてガンや生活習慣病などの多因子疾患も含まれるようになり、遺伝病とされる病気の範囲が広がってきています。また、生まれつきというよりは歳をとってから発症する病気も多く、発症時期の範囲も広がっています。」

このように、遺伝的素因が関与する病気が増えてきていることからも、人にとって病気の発症と遺伝とのかかわりは社会的な関心事になっています。では、犬の遺伝病についてはどのような状況になっているのでしょうか。

「オーストラリアのシドニー大学が OMIA(Online Mendelian Inheritance in Animals)という、さまざまな動物の遺伝する病気や形質に関する情報をまとめたサイトをつくっています。そこに載っていた2003年末と2014年2月の情報を比較してみると、遺伝子異常が明らかな犬の疾患や形質について、2003年には38しか分かっていなかったのですが、2014年には177という数字に増えています。犬の遺伝性と考えられる疾患や形質については、2003年に503だったのが2014年では635、単一遺伝子に由来する疾患や形質については100だったのが249と増えています。人だけでなく犬についても、病気の解析が加速度的に進んでいることがここから見て取れます。」

遺伝性の病気の数が増えているだけでなく、実際に純血犬種に遺伝病が蔓延して病弱化している状況にあることは、2008年、BBC が一石を投じたことにより、番組(Pedigree Dogs Exposed)を通じて世界的にも広く知られるようになりました。

「番組を監修させていただいたのですが、かなりブリーダーを批判するようなアグレッシブな内容になっていると感じました。ブリーディングはこれまで、遺伝的な細かな部分は分からずともなんとか手探りでやってきたものだと思います。その結果、いいものも生まれていますし、副産物として遺伝性の病気などの悪いものもでている現状にある、というのが私の考えです。」

なぜ、純血犬種には遺伝病が多いのか?

「純血犬種に遺伝病が多いのは、遺伝的な多様性が低いからです。犬種内では似たような姿形につくられていますよね。純血犬種は外貌を重視したブリーディングが行われてきたため、遺伝子が均一化されています。これは、純血犬種のなりたちに起因しているのですが、実は、純血犬種に限らず犬である時点で遺伝子の多様性はある程度制限されています。」

犬は約15,000年前にオオカミから家畜化されたといわれています。

「家畜化には諸説ありますが、人に懐きやすくて従順な性質を持つオオカミが選別され、家畜化されていったと考えられています。ここで選別された時点で、すでに遺伝的な多様性を失っていきます。これを専門的には遺伝的ボトルネックと呼んでいます。」

このように、オオカミから家畜化された時点で最初の大きな遺伝的ボトルネックが起きたのですが、再びそれが起こったのがいまから150年ほど前になります。

「15,000年ほど前から150年ほど前までの間は、狩りや牧畜など人の目的に応じた形態や性質の改良がされてきました。しかしこの改良は長い時間をかけて行われてきたので遺伝的多様性を大きく失うような劇的な変化はありませんでした。犬にふたつ目の遺伝的ボトルネックが起きたのは150年ほど前、それはイギリスのケネルクラブ設立により始まりました。犬の品種化、つまり、純血種の誕生によるものです。」

ケネルクラブの設立にともない誕生したのが、犬種基準(スタンダード)です。

「150年前に始まった犬の品種化に伴い犬種基準が作られたのですが、外貌を重要視した基準がひとり歩きしてしまったことで犬は再び劇的に変化していくことになりました。」

犬種基準が誕生したことで、犬種として望ましいとされる外貌(形質)を固定していくために、血縁犬同士の交配(インブリード)が行われることになりました。

「人が望ましいとする形質を固定化するために、インブリードしてきたという手段自体は決して悪いことではなかったと思います。ただし副産物として、生きていく上での健康問題や、劣性遺伝性疾患が増えてきたという結果が出てきました。これは、遺伝的多様性をさらに狭めてしまったがための結果といえます。」

遺伝的な多様性が狭められたところに、創始者効果が加わると、疾患原因遺伝子異常を持つ個体を始祖に、病気を持つ個体が爆発的に増加するという現象がみられることがあります。なかでも劣性遺伝性の病気が増えたのは、病気の原因となる遺伝子をもっているものの見た目は正常である"キャリア"の個体が知らず知らずのうちに増加したため、気付いたときには病気が蔓延していたということになっていたからです。また、病気が爆発的に広がるには、犬種の流行も大きく関与していることが分かっています。

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