スイスのティアハイムと犬の飼い主資格

京子アルシャー

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地階が犬とウサギと鳥、1階が猫。起伏のある地形を上手く利用した二階建て構造のティアハイム・アルヒェ。

スイス東部グラウビュンデン州のハイジの村の近くにクールという街がある。クールはライン川と標高1,400m級の山の間にある人口約3万4,000人の中規模の街だが、スイスで最も古い街のひとつに数えられる。今回は泊まった宿のオーナーに薦められ、この街のティアハイム「アルヒェ」を見学させてもらった。

アウトバーンを下りてすぐ、街のはずれの工場地帯の一角にティアハイムはあり、このティアハイムを運営している動物保護団体は1886年に創立されて以来、現在も行政とタッグを組んで地域の動物保護活動を続けている。

このティアハイムは2005年に新しい建物となり、地階が犬とウサギと鳥、1階が猫と、犬と猫それぞれのストレスを回避するため管理階が分けられている。私が訪れた時は平日の午後だったが、周辺でちょうど散歩帰りのボランティア4-5組に出会った。散歩ボランティアは16歳以上を対象に、リードから放さないこと、ウンチは拾うこと、おやつはティアハイムから支給されるもののみなどルールを決めて行われており、飛び込みでも身分証明書をデポジットに散歩ボランティアができるようだ。

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このティアハイムには大中小3つのサイズの犬部屋があり、犬の大きさによって使い分けられている。これは中サイズの部屋、仲のよい小型犬同士が一緒に入っていた。部屋の最低面積は法律で決められており、室内と戸外のスペースを犬が自由に行き来できるような構造が基本。

ティアハイムとはいえ、ここではすべての動物が保護動物で譲渡対象というわけではない。動物の保護のほかにこのティアハイムではペットホテルとサロンも併設し運営収入を支えているので、中には飼い主さんが病院へ行っている間の一時預かりという犬もいる。どの犬が譲渡対象で、どの犬が預かりなのか、まったく持って見た目からは分からないほど、犬達の表情は一様にリラックスしていた。

このティアハイムでの引き取り条件はまずマイクロチップが装着されていること。スイスでは犬にはマイクロチップの装着義務があり、ティアハイムでもそれ引き取り条件のひとつとし、さらにはマイクロチップ番号が指定のデータバンクに登録されていることも条件にしている。

犬の引き取り料金と譲渡料金は一律の450スイスフラン(約5万円)とけっこう高く、引き取りをお願いする方も、譲渡を受ける方もそうそう気軽にはできない金額だ。しかしこの国にはペットショップでの子犬販売はなく、犬はブリーダーかティアハイムから譲り受けるのが普通であるし、そもそも犬を飼うということにはお金がかかるものだから、その心構えの一環としてある程度の料金がかかるのはある意味大事なことなのかもしれない。もちろんその弊害もあるとは思うが。

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ティアハイム内のドッグラン。施設内の犬達だけでなく、一般の犬達も利用できる。どこへいってもオンリードが義務づけられていることが多いスイスでは、ドッグランの整備も犬の福祉に欠かせない大事なポイントである。

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施設内の通路。屋根の天窓から降り注ぐ自然光とパネルがコンクリ造りの施設の雰囲気を和らげている。

スイスは憲法に動物保護を盛り込んだ世界で一番最初の国である。スイスの動物保護法は動物の福祉の実現について明確な基準があり、その内容はドイツよりも厳しいといわれる。檻の最低面積や社会的接触の機会を与えることなど、犬の飼養における要求事項が法律に明記されているのはドイツとよく似ているが、なによりスイスでは全国規模で犬の飼養に関する専門知識証明(Sachkundenachweis)の習得を飼い主の義務としているのが大きく異なるところである(ドイツでは飼い主免許は自治体ごとの導入が進められているものの、全国規模ではまだ展開していない)。

スイスで飼い主資格の取得義務制度が導入されたのは2008年9月。導入以降初めて犬を飼う者は犬を飼う前に犬に関する知識の理論(最低4時間)を修め、犬を飼ってから1年以内に犬と一緒に実技試験に合格しなければならない(過去に犬を飼ったことがある者は新しい犬を飼う際に実技試験を受ける)。理論を実技に反映させる期間が少なくとも1年あり、その間にしっかりと犬の扱いを習得し犬をしつけることが飼い主の義務であるというわけで、ドイツの犬の飼い主免許とほぼ同じシステムだ。2010年8月末までを移行期間とし、それ以降飼い主資格を取得していない新しい飼い主は罪に問われる。犬の寿命を考えれば、導入後15年以内くらいには飼い主のほぼ全員が資格習得者となることに。

グラウビュンデン州の法律によると、飼い主は犬を飼ったら半年以内に自治体に犬の登録を行い、犬の購入から1年後に犬税150スイスフラン(=約17,000円/年/頭、スイス全体としては自治体によって額が異なり都市部は高め、2頭目以上はさらに高額)の徴収が始まる。飼い主はその徴収が始まる頃までの1年間に飼い主資格の実技試験を修め、2回目の犬税が徴収される時(1回目の犬税徴収から1年後)、犬税の納税窓口である警察で支払いと同時に飼い主資格の証明書が要求されるという仕組みになっている。ちなみに犬の登録を怠り犬税を納めなかった場合、当然罰金を払わなければならない。

これら資格は、全国約2,000名を超える国認定ドッグトレーナーの元で理論も実技も習得することができるほか、理論だけはオンラインコースでも修めることができる(ただし国が認定したものだけが有効とされる)。

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初めて見た、リフトに乗る犬...まさに乗り慣れている様子。飼い主との一体感もここまでくれば見事。

なおスイスの自治体ごとに徴収される犬税は自治体内の犬のトイレやウンチ袋ディスペンサーの設置と管理、飼い主教育のためのコースと相談所の提供、所有者不明の犬の保護(ティアハイムへの委託)費用、牧畜農家への保障(例:犬の糞などで産物に被害があったとき)など、決まった目的のために使われる目的税である。納税者にこれだけメリットがあるならちょっと高額でも払ってもいいかなと思う。

EUに加盟せず、独自の道を歩み続けるスイスならではのやり方は、ある程度小さく、自治体単位で目が行き届く国だからこそ上手く回っている気がするが、ウンチ袋配布といいティアハイムといい犬税といい、その場にいると不正をするという非良心的な行為自体とても恥ずかしく感じられるような、きちんとしたコミュニティー形成と風潮作りが犬の飼い主に向けてなされているというのが、一番この国の見習いたいところかもしれない。

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