藤田りか子さんのセミナー「スウェーデンモデル~スウェーデンに学ぶ完全ブリーディング・コントロール」レポート(3)

尾形聡子

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ドッグトレーナー養成スクール「PALYBOW Dog Trainers Academy」主催の、藤田りか子さんのセミナー「スウェーデンモデル~スウェーデンに学ぶ完全ブリーディング・コントロール」レポート(1)(2)と2回にわたってお伝えしてきました。

犬をつくるとはどういうことなのか?
最終回の今回は、前回に続いてスウェーデンでのブリーディングへの取り組みについてのお話を紹介します。

ケネルクラブの試み:組織的で徹底したブリーディング・コントロール

よほど大きな犬舎でない限り、スウェーデンではペット気質・ショー気質などと区別したブリーディングは行われていないそうです。にもかかわらず、スウェーデンの犬は粒が揃っているといいます。それは、徹底したブリーディング・コントロールがなされているためなのです。

「まずは国の動物愛護法があり、その下にケネルクラブの原則があります。ケネルクラブの原則の中には血統犬としてケネルクラブに登録するための原則があり、そのひとつに、ケネルクラブのヘルスプログラムがあります。」

ヘルスプログラムとは股関節、肘関節、パテラ、PRA など、ケネルクラブが制定する犬種ごとに必要とされる健康チェック項目です。

「たとえばガンドッグ系の第8グループに属する犬種のほとんどは、股関節の状態が記録されていなければブリーディングに使えない、というものです。スコアがいいとか悪いということではなく、犬種として登録をするには股関節についての記録を持っていなくてはならないということです。もちろん股関節の状態が明らかに悪い犬を繁殖に使うことはありませんが、股関節の記録が必要とされる犬種ならば、それさえ記載されていればブリーディングに使っていいというもので、逆を言えば、犬種に該当する健康チェック項目を満たしていない場合には、両親がどんなに健康な股関節を持っていようとも、その子犬はケネルクラブに登録することができません。股関節については、一部例外があります。バーニーズ・マウンテン・ドッグやロットワイラーなどは各犬種における股関節の状態の平均値を割り出してそこを100とし、たとえば105以上の値を持つ犬でないと繁殖に使ってはいけない、95以上ならばいい、といった基準が設けられています。」

またヘルスプログラムでは、病気についてだけではなく気質についての記載が必須とされている犬種もあります。第1、第2グループに属するワーキング系犬種(ジャーマン・シェパード、ボクサー、ジャイアント・シュナウザー、コリーなど)がそれに該当します。

「ヘルスプログラムに該当するチェック項目が全て記録されていれば、どのようにそれが遺伝しているのか、または、どのように改善されていっているかということを後々調べていくことができます。データが蓄積されていくことで、各犬種それぞれに見合ったブリーディング・コントロールをし、よりよい犬を作り出していけるからです。」

ヘルスプログラムの項目は、新たに検査項目として加えられるものもあれば、状態が良くなれば外されることもあり、各犬種の状態により変更されていくような仕組みとなっているそうです。

「たとえばグレート・デーンですと、股関節の状態が改善されたことから、股関節の記載は不要になりました。しかしそれはあくまでもケネルクラブに登録するために必要な項目ではなくなったというだけで、犬種クラブでは引き続き股関節の検査を必要としています。つまり、ケネルクラブと犬種クラブの両方で犬種が守られていると言えますね。一方で、新たな遺伝性疾患として拡張型心筋症の発症率が高まってきていることから、犬種クラブが拡張型心筋症をグレート・デーンのヘルスプログラムに加えるよう、ケネルクラブへ申請しました。犬種クラブからの申請を受けると、ケネルクラブでは、大学などの機関へ研究してもらうよう依頼します。その研究のために血液サンプルなどが必要となると、今度は大学の方がケネルクラブにその旨を伝え、ケネルクラブから犬種クラブを通じて飼い主へとサンプル提供が呼びかけられます。このような研究を進めるためには、病気にかかっている犬だけではなく健康な犬も含めた全てのグレート・デーンが対象とされ、それによってグレート・デーンという犬種内で、その病気がどのような状況にあるのかを調べることができるのです。」

このような制度を作るのに役立っているのはやはり、犬にも背番号制が取られていること、そのためにデータ管理がしっかりと行えることにあるといいます。

「ケネルクラブが持つデータがあり、さらには80%もの犬が加入している保険会社のデータがあります。保険会社には動物病院にかかった全ての犬のデータが行くようになっています。そしてケネルクラブや保険会社が研究資金を出して大学の獣医学部などでデータ解析を行ったり、犬種クラブが行ったアンケート調査のデータを元に研究を行うなど、各方面の団体が一致団結して、よりよい犬を作っていこうという雰囲気になっています。このような姿勢はすごく大切なことだと実感しています。」

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犬種クラブによるブリーディング規制

ケネルクラブの3原則の中にブリーディングのルールがあり、さらにケネルクラブの傘下にある各犬種クラブにも、それぞれ細かにルールが設けられているといいます。

「たとえばカーリー・コーテッド・レトリーバーの場合ですと、ケネルクラブが課すルール、ヘルスプログラムとしては股関節の状態を記録することだけなのですが、犬種クラブのルールにおいては、両親ともに股関節評価が A または B、遺伝性白内障や PRA などの眼の検査を毎年受けてクリアしていることといった細かな条件が設定されており、それら全てをクリアしないと、犬種クラブで子犬が生まれた犬舎として推薦してもうことができません。これらの診断結果はすべて、HUNDODATA(ケネルクラブの犬データ)に公開されるようになっています。」

このデータベースは誰でも見ることができ、犬の健康データだけでなく、競技会やショーの成績、飼い主の名前まで記録されています。さらに両親や血縁関係にある犬についての情報も、簡単に調べることができます。このような情報が全て公開されているためスウェーデンのブリーディングは透明性が保たれ、そして完全にコントロールすることができるのです。

「さらにスウェーデンでは、各犬種クラブがブリーディングに関する作戦をケネルクラブに提出しなくてはなりません。保険会社が公表する病気の統計データ、メンタリティテストによる気質データなどを見て、どのようにしてよりよいブリーディングをしていくかという戦略を、5年計画で立てます。」

X 登録というブリーディングの試み

X 登録とは、スウェーデンに入ってきたばかりで実績がない犬種や、大きな健康問題を抱える犬種に他犬種の血を導入することで問題改善をするために誕生した、スウェーデン特有のブリーディングの試みだそうです。

「たとえば、健康問題を抱える犬種が健康面で改善が見られるようになるまでしばらく多犬種をかけ合わせていき、最終的には戻し交配を行って元の犬種へと近付けていきます。その期間は、多犬種の血が新しくはいったその犬種は X 登録されるのですが、本来の犬種としてほぼスタンダードに戻って安定してきたとジャッジが判断した段階で、本来のケネルクラブでの犬種登録に戻されるという仕組みです。」

実際に X 登録されるに至った犬種に、クランバー・スパニエルがいるそうです。

「スウェーデンで大きな問題になっていたのがクランバー・スパニエルの健康問題です。クランバー・スパニエルは遺伝子プールが非常に狭く、さまざまな遺伝病や股関節の疾患を抱えていました。そのような理由から、他犬種の血を導入したいとクランバー・スパニエルの犬種クラブがケネルクラブに申請し、それについてケネルクラブが協議を重ね、X登録として健康問題を改善すべく、ブリーディングを行うことにゴーサインをだしました。」

クランバー・スパニエルの健康問題については、今から遡ること20年前の1993年に行われた世界クランバー・スパニエル・カンファレンスにて、スウェーデンの遺伝学者がすでに懸念を示していたといいます。

「その学者は、このままだとクランバー・スパニエルは犬種として30年もつかもたないかであると警告していました。スウェーデンではクランバー・スパニエルの健康問題を改善するため、2001年にイングリッシュ・コッカー・スパニエルとかけ合わせるプログラムを開始。戻し交配によって、イングリッシュ・コッカー・スパニエルの血の入ったクランバー・スパニエルは、審査員によって"スタンダードの基準に達している"と判断を下され、再び純血種として登録されるようになりました。」

ちなみにイギリスでは、クランバー・スパニエルを全く見た目の異なるショータイプとワーキングタイプとに分けているそうです。しかしイギリスでもショータイプのクランバー・スパニエルの健康問題が浮上してきたため、ワーキングタイプの血を入れて健康問題を改善しようという試みを行っているそうです。

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メンタリティテスト

スウェーデンでは、見かけを審査するドッグショーと同様に、作業特性や気質についても重きをおいたブリーディングを行っていることは、これまでのお話の中でもお伝えしました。気質を大切にするために行われていることのひとつが、メンタリティテストです。

「性格も犬種のうちということです。その犬種らしい性格が、ブリーディングを行う上で重要とされています。そこでメンタリティテストを行い、個々の犬が持つ気質をプロファイリングしています。基本的にこれは、ワーキングドッグのためのテストになります。」

メンタリティテストでは、犬のリアクションを見るために10のテストを行います。各テストにおいての犬がみせた反応を33の項目にわけて点数をつけ、それをもとに人とのコンタクトの取り方、好奇心の強さ、狩猟欲、恐怖心、遊びの強度などについて、クモの巣グラフに表わされます。グラフでは、その犬の結果とその犬種の平均値とを比較したり、犬全体の平均値と比較することができるようになっています。もちろん、犬種間で平均値を比較することもできるそうです。さらに最近では、犬種としての作業特性を測る機能性プロファイルというテストが行われるようになったそうです。

「そもそもの始まりは、ゴールデン・レトリーバー・クラブが、レトリーバーとしての特性を失いつつあるゴールデンの機能性を向上させなくてはならないと考えたことです。2007年から開始した機能性プロファイルでは、レトリービング、捜索、獲物への興味、水場での仕事など、レトリーバーとしての機能を評価していきます。このようなレトリーバー犬種ならではの機能は、メンタリティテストでは測ることができません。これらのテストを両方を行い、両方の結果を参考にしながら犬種の特性を大切にして、よりよいブリーディングをしていくことが目的です。」

2007年から始められ、5年以上のテスト期間を経て、来年2014年から機能性プロファイルの結果が公式に血統書に登録されることになったそうです。

「ゴールデンから始まった機能性プロファイルは現在、全レトリーバー犬種に適応されつつあるところです。たとえ犬が素晴らしい素質を持っていたとしても、飼い主がレトリービングの競技会に参加しようとしなければ、その犬の持つ才能は陽の目を浴びませんよね。機能性プロファイルのいいところは、各個体が本来持っている能力が記録として残されることです。これまでですと、競技会の成績を見てブリーディングに使うかどうかという判断がなされていましたが、機能性プロファイルを使えば、競技会に参加しない犬にまで裾野が広がるため、より多くの個体がブリーディングプログラムに参加できるようになり、遺伝子プールがより広くなっていくことに大きな意味があります。スウェーデンでは、ブリーディングのための遺伝子プールをなるべく広くしようとする方向で動いているのです。」

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そして藤田さんは、次のような言葉でセミナーの最後を締めくくりました。

「要するに、皆が丁寧にブリーディングをしていくのが大切だということです。犬種というのは決して贅沢品ではありません。それぞれ各人が努力して、協力してひとつの犬種を作っていくということなんです。このような地道な努力を続けていけば、パピーミルのように適当に繁殖するという風潮がなくなっていくと思います。そんな時代がいつか、日本にも訪れればいいなと心から願っています。」

 

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