アメリカンケネルクラブへの批判と反論

ガニング亜紀

コメント(0)

dogs

(photo by perpetualplum )

2月10日、ニューヨークタイムズ日曜版のスポーツセクションの一面に、アメリカンケネルクラブ=AKCに関するショッキングな記事が掲載され、大きな話題となりました。

アメリカの新聞は全国ニュース、ローカルニュース、スポーツ、エンターテイメントなどがそれぞれセクションごとに独立した紙面に分かれていて、毎日6~8部の新聞が届く仕組みになっています。毎日購読しなくても週末や日曜だけなどの購読もできる為、日曜日は購読者数が最も多い日です。その日曜版の一面に掲載された記事というのは、たいへん大きな扱いなのです。

記事のタイトルは「安全性の懸念、ケネルクラブへの批判へ」

今日はNYタイムズの記事とそれに対するAKCの反論をご紹介します。

NYタイムズ紙はまず、AKCに登録しているブリーダーによる3件の事件を例に挙げています。

2011年、ワシントン州で摘発されたチワワのAKC公認ブリーダー、ハミルトン夫妻。妻はドッグショーの審判も務め、チャンピオン犬のオーナーでもあるブリーダー。夫は地元のAKCロットワイラークラブのリーダーという、一見犬の飼い主やブリーダーとして理想的に見える人々でした。しかし地元警察が捜査に踏み込んだ時、ハミルトン家の地下室には38匹のチワワが、積み上げられたクレートの中の非常に不衛生な環境に閉じ込められていました。さらに別宅では62匹の犬が発見され、保護されました。犬達は皆なんらかの疾患の様相を呈しており、痩せこけて爪の伸び過ぎた酷いありさまでした。

ハミルトン夫妻は第2級動物虐待罪で逮捕されました。AKCは、ハミルトンから登録申請されたのは4回分の出産で生まれた子犬達だけで、それ以外に関してはAKCの管轄外であるとしています。ハミルトンのAKCドッグショー審判の資格、その他の特権は剥奪され、クラブから2,000ドルの罰金を課せられました。夫妻のうち、夫は逮捕のすぐ後に他界しました。妻の担当弁護士は「保護された100匹の犬は夫の管理下にあった。妻が世話していたチワワは健康で問題はない。保護された犬達に対して妻は責任がない。」と述べています。

ハミルトンは3匹だけを手元に残して、その他の犬は全て所有権を放棄、定期的な立入検査と賠償金25,000ドルの支払いに同意しています。

chihuahua

(photo by apdk )

2011年、モンタナ州で摘発されたマイク・チリンスキーの件はさらに悪質でした。彼もAKC公認のブリーダーです。チリンスキー宅に警察の捜査が入った時、161匹の痩せこけたマラミュートが狭いケージの中で排泄物にまみれて発見されました。別の場所には死んだ犬が積み上げられ、水のボウルはすべて空っぽで転がっていました。チリンスキーは合計91件の動物虐待と飼育放棄の罪により、禁固5年の刑に処せられました。このマラミュート達のレスキューには70人のボランティアの人手と約50万ドルの経費がかかり、経費の大部分はHumane Society of the United States(HSUS米国動物保護協会)が負担しました。

AKCは2008年と2009年にチリンスキーの施設の査定をしており、評価は「AKCが定める飼育環境基準に達している」というものでした。2009年当時、犬舍には60匹の犬が飼育されていました。

2012年、ノースカロライナ州で摘発されたウィリアムズのケースでは、警察が踏み込んだたった3ヶ月前にAKCが施設の査定を行っていました。AKCの査定時、34匹のグレートデーンとマスティフが飼育されていたのですが、査定の結果は「容認出来る範囲」、全部で15項目あるチェックポイントのうち「改善が必要」とされたのは2項目だけで、「AKCが定める飼育環境基準に達している」と報告されていました。3ヶ月後の警察の手入れの時の状態は、ほとんどの犬が「劣悪な状態」で慢性的な怪我や病気を患っていました。ケージには外に出る為のアクセスは設置されておらず、大型犬達は閉じ込められたままでした。

ウィリアムズは地元のグレートデーンレスキューグループから民事訴訟を受け、その後、調停で合意に至っています。

これら3件のケースの保護時の犬達の状態の描写は、裁判記録からの引用であるとNYタイムズは書いています。3件ともAKC公認のブリーダーですが、彼らの犬の飼育状態は明らかに"パピーミル"と呼ばれるものに該当します。これらの場所で生まれた子犬達もAKC公認の血統書がつけられて、高い値段で取引されます。

談話を求められたAmerican Society for the Prevention of Cruelty to Animals (ASPCA米国動物虐待防止協会)の会長は、「我々ASPCAが調査に関与する商業ブリーダーのうち、多数がAKC公認のブリーダーです。パピーミルの子犬に大金を支払うのは、高いお金を出して偽物のローレックスの時計を買うようなものです。消費者は、AKC公認であればそれだけで健康で問題のない子犬だと信じ込まされている。」と述べています。

記事の中で、AKCはASPCAの談話を根拠のないものだと反論しており、クラブは全国の公認ブリーダーの施設の査定を行い、犬の飼育環境の向上に努めていると主張しています。しかしながら、年間何件の査定が行われ、アニマルポリスなど法的期間に通報されたものが何件あったかという点については、公表を拒否しています。

AKCは、犬を取り巻く環境を改善するための規制や条例の設置にも反対の立場を取り続けています。NYタイムズではこの点に関して、「AKCは規制に反対する団体や政治家へのロビー活動や寄付を、熱心に行っている」と記述しています。

具体的な例をいくつかあげると、ロードアイランド州の「犬を1日14時間以上ケージに入れたり鎖につないだままにしておいてはいけない」という規制案。AKCはこれに反対する理由として、「具体的な数字をあげることは飼い主に対して負担になる。飼い主が仕事などで犬から目を離さなくてはいけない時や就寝時、塀のある庭や快適な犬小屋の中で犬を過ごさせることは悪いことではない。」と発表しています。

マサチューセッツ州では「動物虐待の容疑で逮捕された飼い主から動物を取り上げ、有罪が確定したおりには保護動物の飼育費用の負担を科す」という案にも反対を示しました。「有罪が確定していない時点で動物を取り上げることは評価できない。家族など共同の飼い主で容疑に関連しない者がいれば、その者に託せば良い。保護期間中の飼育費用も負担が大きすぎる。」という理由です。

ルイジアナ州では、ワイヤータイプのケージを積み重ねることを禁止する法案にも反対しました。「動物病院やケンネル、スポーツイベントなどでも移動の際、ケージを積み重ねることはごく普通に行われている。これを禁止すると、飼い主や動物取扱業者は現在よりも多くのスペースが必要になり、出費がかさむ事につながる。」

新聞記事の中では触れられていませんでしたが、以前に書いたミズーリ州のパピーミル規制法案にも真っ向から反対したのがAKCでした。1人のブリーダーが飼育できる犬の数を制限することについて、「たくさんの犬を飼育しているからといって、それが犬の飼育環境の低下につながるわけではない。大規模でも責任あるブリーダーはたくさん存在する。法で犬の飼育頭数を制限することは、責任あるブリーダーに多大な負担をかけることにつながる。」というのがその理由です。

そのような状況を憂いて、AKCを告訴しているブリーダーも存在します。コトン・ド・テュレアールのブリーダーであるハイリー・パーカー氏は「コトンの繁殖は長年パピーミルとは分離したビジネスモデル故に、高い評価を得ていた。AKCは大規模繁殖業者とつながり、このモデルと評価を低下させた。」としてAKCを相手取って訴訟を起こしています。

また、オレゴン州に住むコリーのブリーダーで、40年以上ドッグショーの審判も務めているテッド・ポール氏は、AKCからの仕打ちを証言しています。ポール氏は、2009年にオレゴン州がブリーダーが所有できる犬の上限を25匹とするという法案を作る際、サポートを依頼されました。アメリカコリークラブの会長でもあるポール氏は、それは犬の虐待を減らすことにつながると喜んで依頼を引き受けました。法案は通過し、無事に規制法は施行されることになったのですが、ポール氏はAKC主催のドッグショーの審判から一切外されてしまいました。事実上の追放です。ポール氏はパピーミルからレスキューされた犬とともに暮らしています。「ブリーディングというのは、心から最高の愛情を込めて行うべきものなのです。」ポール氏の言葉です。

ここまではNYタイムズの記事に書かれていたことです。

記事中でもAKCの言い分はいくつか述べられていましたが、AKCはクラブのウェブサイトでも反論を発表しています。

  • NYタイムズの記事は事実に基づいておらず推測で書かれており、読者をわざと誤解させるように誘導している。
  • ASPCA会長の談話も単なる意見であり、事実ではない。同団体は常にそのような戦略でAKCの印象を貶めようとしている。
  • AKCは法執行機関や立法機関と良好な関係を築き、協力し合っている。
  • ハミルトンのケースはパピーミルではなくて、むしろドッグホーディングの要素が強い。それはAKCの規定の及ぶ範囲ではない。
  • チリンスキーのケースは、犬といっしょに200鉢のマリファナが押収されている。AKCが最後に査定を行ってから2年のうちに、チリンスキー氏はマリファナ栽培も手がけ始めたために犬の世話がおろそかになったのであり、それはAKCの落ち度ではない。
  • ウィリアムズのケースは捜査令状の取得に違法な点があったため、起訴は棄却になっている。ウィリアムズは違法な手順に協力した「レスキュー」団体から犬たちを取り戻すための民事訴訟に着手している。

法規制や条例への反対運動はAKCが自らのウェブサイトで発表しているので、これらは新聞記事に書かれている通りです。ASPCAやHSUSをはじめとする動物保護団体は、AKCのパピーミル擁護とも見て取れる姿勢に対して、長期に渡って改善を求めています。
(参照 AKC Fails to Take a Stand Against Puppy Mills/ by HSUS )

さて、タイムズ紙が書いた記事とAKCの反論、どのように思われますでしょうか。

私の目には、AKCの言い分はいつも犬ではなくて業者や飼い主の方ばかりを見ているように思えます。ネット版NYタイムズの当該記事のコメント欄は、多数のAKC非難の声と少数の擁護、または中立の声が寄せられ熱い展開になっています。

Stop Puppy Mills - warning signs

(photo by PetsAdviser.com )

犬種のスタンダードの設定やブリーダーの認定など権威のある団体だけに、ケネルクラブ公認といえば信用したくなるのが人情というもの。けれどブリーダーを選ぶ時、紙に書かれた資格や肩書きではなく、自分の目で見て、自分で話をして確かめて、自分の嗅覚を最大限に発揮すること、これが何より大切ではないかと思います。良いブリーダーを探そうと思ったら、必ずその場所を訪ねて犬達の飼育環境を自分の目で確認し、納得いくまで質問すること。親犬も含めて、全ての犬の飼育環境を見せてくれるか確認すること。これらはブリーダー選びのポイントとしてよく言われることです。

これはアメリカの話ですが、日本の場合でも犬を迎える時に心しておくポイントは同じでしょう。藤田りか子さんが「ブリーダーから子犬を得るということ」の記事の中で書いていたとおり、「ブリーダーを選ぶ」という買い手からのシビアな圧力がブリーダーの質を向上させることにつながります。NYタイムズの記事を「権威のある団体への盲信」への警鐘として、参考にして頂ければ幸いです。

<参考記事>
Safety Concerns Stoke Criticism of Kennel Club http://nyti.ms/1519TzY
AKC Dear Fellow Dog Lover,

<2013.3.15 追記>
文中で「公認ブリーダー」という言葉を使いましたが、これについて読者の方よりご指摘を頂きました。
原文で「Some of her litters were registered with the American Kennel Club, a stamp of approval from an organization charged with maintaining breed standards and registering purebreds around the country=彼女のところで産まれた子犬の一部は、犬種スタンダードの保守及び国内登録純血種として協会からのお墨付きでAKCに登録されていた」などの記載から「公認」という言葉を選択しましたが「公認ブリーダー」は「ブリーダー」「産まれた子犬がAKCに登録されている」という言葉の方が適切であったと思われます。
今後ともより良い情報の発信に努めてまいります。

 

GREEN DOGがお勧めする商品

フード選びに迷ったら。厳選お試しセット
累計注文30,000食突破(2016年7月現在)
フード選びに迷ったら。厳選お試しセット
EPA・DHA豊富!皮膚被毛の健康をサポート
EPA・DHA豊富!皮膚被毛の健康をサポート
ワイルドアラスカンサーモンオイル
獣医師も注目する「お腹の強力サポーター」
獣医師も注目する「お腹の強力サポーター」
バランスフローラ
諦めないで!歯磨き嫌いさんにはコレ
諦めないで!歯磨き嫌いさんにはコレ
ペット用歯磨きジェル 歯にマヌカ
食べきりサイズのおやつが5種類試せる!
食べきりサイズのおやつが5種類試せる!
WITH GREEN DOG ミニサイズおやつセット

dog actually ライター書籍 PickUp

「犬と遊ぶ」 レッスン テクニック: 見落としがちな「犬との遊び」は最大のトレーニング法だった! (世界のドッグスペシャリスト)
「犬と遊ぶ」 レッスン テクニック: 見落としがちな「犬との遊び」は最大のトレー… イェシカ・オーベリー (著), 藤田 りか子 (編集, 写真) 誠文堂新光社 (2015/8/20)
最新 世界の犬種大図鑑: 原産国に受け継がれた420犬種の姿形
最新 世界の犬種大図鑑: 原産国に受け継がれた420犬種の姿形 藤田 りか子 (著), リネー・ヴィレス (著, その他)
誠文堂新光社 (2015/2/24)
ドッグ・トレーナーに必要な「子犬レッスン」テクニック: 子犬の気質を読みながら、犬の語学と社会化を適切に学ばせる (犬の行動シミュレーションガイド) (犬の行動シミュレーション・ガイド)
ドッグ・トレーナーに必要な「子犬レッスン」テクニック: 子犬の気質を読みながら… ヴィベケ リーセ (著), 藤田 りか子 (編集), Vibeke Sch. Reese (原著)
誠文堂新光社 (2014/8/20)
よくわかる 犬の遺伝学: 健全性から毛色まで、知って役立つ遺伝の法則
よくわかる 犬の遺伝学: 健全性から毛色まで、知って役立つ遺伝の法則 尾形 聡子 (編集)
誠文堂新光社 (2014/1/20)
今日からチャレンジ! 楽しいローフードのすすめ
今日からチャレンジ! 楽しいローフードのすすめ カリーナ・ベス・マクドナルド (著), 森 ひとみ (翻訳), 尾形 聡子 (翻訳)
エー・ディー・サマーズ (2014/2/28)
DVDBOOK 犬はしぐさで会話する(1): ヴィベケ・リーセの犬のボディランゲージ解説 ()
DVDBOOK 犬はしぐさで会話する(1): ヴィベケ・リーセの犬のボディランゲージ解説 ヴィベケ・リーセ (著), 藤田 りか子 (編集)
誠文堂新光社 (2013/12/10)
いぬ語会話帖: 犬の言葉をシンプルに理解するためのフォトブック
いぬ語会話帖: 犬の言葉をシンプルに理解するためのフォトブック ヴィベケ・リーセ (著)
誠文堂新光社 (2014/7/10)
ドッグ・トレーナーに必要な「深読み・先読み」テクニック: 犬の行動シミュレーション・ガイド
ドッグ・トレーナーに必要な「深読み・先読み」テクニック: 犬の行動シミュレーション・ガイド ヴィベケ・S. リーセ (著), 藤田 りか子 (編集, 写真)
誠文堂新光社 (2011/8/19)
ドッグ・トレーナーに必要な「複数の犬を同時に扱う」テクニック: 犬の群れとリーダーシップについての深まる謎を解く! (犬の行動シミュレーションガイド)
ドッグ・トレーナーに必要な「複数の犬を同時に扱う」テクニック: 犬の群れとリーダーシップについての深まる謎を解く!… ヴィベケ・リーセ (著), 藤田 りか子 (著)
誠文堂新光社 (2013/4/19)
ドッグ・トレーナーに必要な 「犬に信頼される」テクニック: 「深読み・先読み」の第2弾、問題行動はこれで直せる! (犬の行動シミュレーションガイド)
ドッグ・トレーナーに必要な 「犬に信頼される」テクニック: 「深読み・先読み」の第2弾、問題行動はこれで直せる! … ヴィベケ・リーセ (著), 藤田 りか子 (著)
誠文堂新光社 (2012/11/19)

もっと見る