去る1月28日と2月4日の2日間にわたり、京子アルシャーさんが講師として招かれたセミナーが東京の初台にて開催されました。セミナーを主催したのは Scent Line でドッグトレーナーをされている近藤奈緒子さん。近藤さんが昨年ドイツに旅行に行った時に京子さんとの偶然とも必然ともいえる運命的な出会いがあったことから、今回のセミナー開催の運びへと繋がっていったそうです。
私が参加した2月4日のテーマは「ドイツに学ぶ動物福祉」と、「犬の狩猟行動」。ドイツの情報は、当たり前ですがドイツ語で書かれているために、イギリスやアメリカといった英語圏の国の情報に比べて日本にはなかなか入ってきにくいのが現状です。京子さんがドッグアクチュアリーで書かれている記事はもちろんですが、セミナーの話もとても内容の濃い貴重なもので、各テーマ2時間という時間が足りないと感じるほどあっという間に過ぎていきました。お話の後には参加者の方々から沢山の質問が飛び交い、とても活気に満ちたセミナーでした。
最初のテーマは「ドイツに学ぶ動物福祉」。動物福祉の先進国ドイツのお話は、京子さんがドッグアクチュアリーで書かれている記事を読んでも、セミナーでのお話を聞いても、日本もドイツに見習うべきところが沢山あるといつも感じます。ドイツの動物保護が進んでいるのには現状に合わせてフレキシブルに対応できる法律の存在が大きく、さらに動物保護法を取り巻く関係者、動物に関わる組織、国民ともっとも近いところで活動を続ける動物保護団体など、それぞれが役割を認識して適切に活動をし続けていることで、ドイツの動物たちはその福祉を守られているのだとしみじみ感じました。
ドイツの犬に関する法律について
ひとことで法律といっても、ドイツでの犬に関する法律にはさまざまなものがあります。憲法に始まり、EU法ガイドライン、動物保護法、犬の保護に関する条例、狂犬病予防法、動物死体処理法、動物飼料法(現在は食品衛生法と一緒になっているそうです)、犬税法と多岐にわたっています。その中でも各国において国の最も基本となる原理や原則を定めているものが憲法です。
その憲法に、動物保護に関するくだりを世界で初めて記載した国はスイスで、1992年のことでした。それから10年経った2002年に、ドイツでは、「自然な生活基盤の保護」の一部として"自然保護の一環としての動物保護"という言葉が加えられたそうです。そして2005年にはオーストリアが。現在、世界的に見ても、憲法に動物保護に関する文言を記載している国はたった3ヶ国しかなく、いずれもドイツ語圏の国です。このことからも、ドイツ語圏で共有されている自然保護・動物保護に対する思想が政治として表れ、憲法に反映されやすかったということは、ある意味でドイツ語圏特有のものでもあるということが言えるといいます。
基本となる犬の法律①:動物保護法
原理原則を定める憲法のもと、ドイツでの犬に関しての基本となる法律は、『動物保護法』と『犬の保護に関する条例』の2つがあるそうです。『動物保護法』は、ペットや産業動物だけでなく、実験動物や野生動物、動物園の動物、サーカスの動物などあらゆる動物すべてに対しての法律です。一般的な飼育に関する事項から、手術、殺行為(殺処分・安楽死)、繁殖、販売、輸送に至るまで事細かに規定されています。
同じような位置づけとして、日本には動物愛護管理法があります。しかし、日本の動物愛護管理法はドイツの動物保護法と比較すると、全ての動物を対象とかかげているにも関わらず、ペットに関する項目に偏っており、野生動物や動物園の動物などに対しての記述は全くなく、また、産業動物とされる家畜や実験動物などについても、動物を保護する、愛護するという視点からではなく、人間に害を及ぼさないようにという視点からの管理という基準をもって定められているものだという違いがあるそうです。
違いの例としては、たとえば手術行為や殺行為をする時の記述にも表れているといいます。ドイツの場合は、動物の手術行為や殺行為を行うときには必ず麻酔下において、回避可能な痛みは回避しなくてはならないと書かれている一方で、日本の場合は、痛みや苦しみをできる限り与えないように努力すること、とされています。回避義務と努力目標とでは、その違いは歴然としています。
殺処分については、動物保護法に「正当な理由なく動物を殺してはいけない」と明記されています。
「ティアハイムにおいて収容期限切れによる殺処分は行いません。ですから何年もいられるのですが、果たしてそれが犬にとって幸せかというと・・・また、それは別の問題となってきます。そもそもドイツには、殺処分場は過去にも現在にも存在していません。唯一行われるのは、獣医師による安楽死のみです。安楽死も、仲介が不可能とされる、不治の病に罹っている犬や、どうにも攻撃性が高く危険で行動修正が無理だとされる犬に限られています。」
ちなみにドイツの保護団体による仲介率は、全国平均で90%にものぼるそうです。ベルリンのティアハイムでは、年間に2000頭の犬が新たに収容され、その98%が新たな家庭へ受け入れられていくそうです。このように、保護団体が世話をする犬の頭数は決して少なくないものの、そこを利用して犬を迎える人も少なくない、という状況になっているそうです。
さらに動物保護法では、健康な個体にはメスを入れてはいけない、つまり手術を行ってはいけないとしているそうです。たとえば断尾、断耳などがそれにあたります(例外的に、実猟犬の断尾だけは許可されているそうです)。これに抵触するのが犬猫の避妊/去勢であるそうですが、それについては、目的を持って繁殖を行うため、繁殖を制限することで安易に命を増やさないようにするため、安易に命を増やすことはその個体の将来の生活を約束できるものではないとして、無計画な繁殖は虐待行為と捉えられ、動物の福祉を守ることに反していると解釈されて例外的に認められているそうです。
また、繁殖についての規定のひとつ、虐待繁殖の禁止に関して、詳しくは京子さんの記事、『虐待繁殖について考える(1)、(2)、(3)』をご覧いただくとして、基本としては虐待繁殖を禁止しているものの、虐待の状態についての細かな定義はなされてはいないそうです。なぜならば、そうすることで日進月歩ともいえる科学的研究によって新しく明らかにされていく事柄についても柔軟に対応していけるようにするためであり、その時その時の科学的根拠と最大限の知識をもって出来る限り虐待繁殖を防ぐために、大きな枠組みで定める必要があるとされている項目だからだそうです。国レベルでは細かに即座に対応していくことが難しいため、その基準の制定はドイツ家庭犬協会が行っています。
基本となる犬の法律②:犬の保護に関する条例
『犬の保護に関する条例』は、犬が本来持ち合わせる自然を保ちつつ暮らしてゆくための必要最低条件、一般的な飼育事項から戸外での飼育方法、繋留、室内での生活条件、断尾断耳についてなど、動物保護法の規定を反映して更に詳細に規定されている条例です。さまざまな事柄に対して具体的な数字や条件などが定められているものの、ドイツでは国会を通さなくても条例を変えることができるというフットワークの軽さがあることから、その具体的な数字が常に生きた数字でいられる状態に保つことができる良さがあるといいます。
条例には、たとえば、『仔犬を生後8週齢以下において母犬から引き離してはならない。もし何らかの事情によって8週齢以下の仔犬が母犬から引き離される場合には、必ず同胎犬(一緒に生まれてきた兄弟姉妹)たちと一緒に暮らさせること』という規定があります。
「 "引き離してはいけない"であって、"販売してはならない"ではないんです。極端に言うならば、もし販売する場合には母犬も一緒。それは特に制限されていません。」
母犬から仔犬を引き離すのが8週齢と定められているのであって、普通に考えれば、販売するのはそれ以降になることは明白です。そこで挙げられるのが、何故8週齢なのか?ということについてです。細かな条件をクリアした状況でのびのびと母親犬や兄弟犬と過して社会化が十分に進んだ仔犬が、母親から引き離されても社会変化に充分に対応していけるとされるのが、ドイツで規定されているところの8週齢ということなのだといいます。日本でも8週齢問題とまで言われるほどになっていますが、それについては京子さんの記事、『なぜ子犬の販売に「8週齢規制」が必要か?(1)、(2)』、『忘れてほしくない「8週齢規制」の必須条件』に詳しく書かれていますので、そちらをご参照ください。
また、犬の飼育に関して、その檻の大きさや採光、通気、素材、人との接触などといったことまで詳細に決められており、繁殖に関わる人は事業許可を取得する必要があるため、パピーミルを運営すること自体が資金的にも手間的にももはや不可能である、ともいえる状況であり、同じく、ペットショップでの生体販売も飼育の細かな条件を満たすことができないため、販売を禁止しているわけではないものの現実的に販売することがほぼ不可能となっているのだそうです。

[photo by Kyoko Alscher]
檻の大きさは体高50センチまでの犬でも6㎡が必要とされています。それは、繁殖者に関わらず、一般の家庭においても、また、ティアハイム(写真)においても、あらゆる状況下の全ての犬に対して人が守るべき規定になっています。
犬の保護に関する条例の他にも、家畜の保護に関する条例、家畜の運搬に関する条例も施行されているそうです。現在、動物保護団体から政府に提出されている草案には、猫の保護に関する条例や、動物を保護するための保護施設や運営などに関する規定を定めたティアハイム法(動物保護施設法)があるそうです。
動物福祉のセミナー前半は法律のお話を中心に進められ、後半はさまざまな動物に関わる団体のお話へと移っていきました。
























