
来年の動物愛護管理法改正を控え、改正案の中でも焦点になっている「子犬販売における8週齢規制」。
現行法では幼少の犬猫の販売週齢に対する規制がないことから、ペットショップの店頭で販売されている子犬達は離乳がまだ不十分な3-4週齢で母犬と兄弟犬から離され、流通させられている状況だ。「小さければ小さいほど、そのかわいさから売れる」「大きくなるほど売り手が付きにくくなる」という日本、なにしろ日本は幼少の子犬を好んで欲しがる傾向にある。
売り手も買い手もその時はそれでいいかもしれない。しかし、この流通方法で果たして犬に影響がないのだろうか?
幼い動物を早期に親から離し、長時間の流通に乗せて販売することはかわいそうである、というのが人道的な感情であるならば、その状況下にある子犬に実際にどのような影響があるのか?それを今回は子犬の心身の成長と合わせて考えてみたい。
子犬の成長段階は生理的/行動学的/解剖学的な所見より区別され、これらの要素がそれぞれ相互に関わり合いながら子犬は日々成長してゆく。1週間生まれが違うと、子犬が出来ることも感じることも異なってくる。
まず栄養生理学的な理由から言うと子犬を最低限4週齢まで親犬と暮らさせることは健康面において極めて重要である。本来自然な状態では、離乳は段階を踏んで母犬が授乳を拒否する約6週齢(同時に子犬の興味が徐々に外部環境へと向く時期)までゆっくりと行われることから、子犬の体は食餌内容の変化に徐々に対応し腸内細菌の成長が安定する。安定した腸内細菌バランスは子犬のその後の健康状態にプラスの影響を与え、とても大事な価値がある。
ところが離乳を急ぎ母犬から引き離すと子犬の腸内は急激な食餌内容の変化により安定するのが難しく、また母犬から離されることによる環境変化と心理的なストレスも重なり、下痢や嘔吐を繰り返すことが多い。母乳以外の食餌を充分に食べることができないままに世に出され、その結果免疫力が下がり虚弱な状態に陥りやすい。

この離乳条件の他に「なぜ子犬は早期に親から離してはいけないか」、その最も重要な理由が子犬の精神面の成長にある。
子犬の精神成長速度に合わせ、適切な時期に適切な方法による周辺環境(生物/無生物を含む)への順応と、その経験を通して養われる周辺環境への許容(メンタル・キャパシティ)の拡大は、子犬が将来「犬」として社会の中で生きてゆく上で非常に大きな基盤を作る。
例えば乳房や離乳食を巡って兄弟達と競争することひとつにしても、あるいは親犬に歯を立ててじゃれ付き痛みによって反撃されることも、子犬にとっては他への許容を養う大事な場であり、動物全般において幼少期の生活と遊びは常に将来の実社会適応への練習である。これは(下手な擬人化はしたくはないが)人間の子供でも同じだ。
この視点から言うと、離乳がようやく進みいよいよこれから様々な社会勉強を必要とする時期に子犬を親兄弟から引き離し、数日・数週間に渡り狭く刺激のないショーケースの中で個別飼育をすることが適切と言えないのは、想像に容易いことだろう。適切でないどころか、子犬の精神成長においてダメージが極めて大きい。
これはただ早期の個別飼育が精神にトラウマを与えるのではなく、本来培われるべき精神成長の自然な発育段階が阻害され、週齢に伴った健全な行動の発現やその時期の経験に基づいた社会的行動が将来観られず、また行動障害の原因になるということである。
周辺環境に対する許容の小ささと阻害された発育状況から犬が「噛む」あるいは「攻撃的になる」のは発展した行動障害の一部であり、また攻撃性の対象となるのは人だけでなく家具なども含まれ、仮にこの攻撃性が周辺に向けられなければ、犬自身の体に向けられた自虐行為として現れることも多い。その他周辺環境に対する過敏な反応として長時間吠えたり、ぐるぐると自分の尻尾を追って回り続けたり、不安や恐怖の過剰反応として固まって震えたり、パニック状態でその場を逃げ出すなどの行動としても現れる。
結果として、幼少期の経験の偏りが引き起こす将来社会での問題は「噛む」という行動として現れる可能性を持ち、しかし「噛む」という行動は犬の精神的障害のうちでもほんの氷山の一角であるにもかかわらず、困ったことに今の日本では犬が「噛む」ということしか社会で問題にされない。「噛む犬」の問題はあくまでも人間の視点に立った人間への問題点であり、氷山の水面下にある大きな塊として犬自身が抱えている苦悩にはなかなか注目がされない状況だ。
また変化に富み、刺激のある環境内で子犬が体を駆使して遊ぶことは子犬の解剖学的・身体的な成長においても重要な意味を持ち、ここでもまた精神面と同じく刺激と成長の関係がある。

さて、ここで冷静に考え、「人に危害を加える(おそれのある)犬」を管理することと、「犬の苦悩」を解決するのが本来動物保護であることの違いを明確に意識しなければ、動物保護の方向性はただ混乱を招くだけである。人間の保護のために「人間を噛む犬」の問題を表面的に解決しようとするのではなく、まずは「犬が人間を噛むのは犬が苦悩を抱えた末の結果である」ということに一度しっかり注目し、その苦悩の原因がナニであるかを考えて欲しい。
例えば、「犬が人を噛まないようにするにはどうすればいいか?」という問いに、以下のような選択肢があるとしよう。
① 人や他の犬から遠ざけて檻に入れて(あるいは鎖につないで)飼う
② 人の側に置き、犬の欲求が満たされるよう運動と社会勉強を兼ねた外出を長時間行う。
①は誰でもやろうと思えば出来る一方、②を日常生活で万人がこなせるわけではない。しかし、どちらの方法で飼われた犬が人の動きに対して過剰に反応するかというと、(お分かりだと思うが)①である。
この理由の詳細は史嶋さんの過去記事「犬の問題行動対策 -噛み癖(前編)/(後編)」にすでにある。
動物の保護を行い、動物の生まれ持つ本来の習性を出来る限り発揮させることは、動物が人間社会に関わってくる上で優先的に解決されなくてはならない問題である。言い換えれば、噛む犬の問題を解決したいなら、まず犬の自然行動の保護が最優先されなければ、いつまでたっても同じことが繰り返されるだけ、ということだ。
これを人間社会に対する「犬の自然」のささやかな抵抗だと思えば、もっと関心を傾けることができるだろうか?
次回はなぜ「8週齢」が大事なのかについてお話ししたい。
【関連記事】
・噛む犬はこうして作られる (3) - 幼少期の過ごし方
・犬から見た世界 (3) - 子犬の社会化とは何か(前編)
・犬から見た世界 (4) - 子犬の社会化とは何か(後編)




























記事の掲載、有難うございます。ブログで紹介させてください。
商品として「売りやすさ」を優先してきた業界ですが
購入する側も「生き物としての幸せ」についての知識を得て、生き物を不幸にするような飼い方をしないように、買い物の際に良く考えることが大切だと思います。
私の犬を預けている犬舎は使役犬種を扱っている事もあって、ブリーダーの考えで6カ月以降に子犬を譲渡しています。
大型犬だと成犬に近い大きさになってしまいますが、股関節疾患や問題行動を防ぐので飼い主にとっても飼育が楽です。
次回の「何故8週なのか」の記事、楽しみにしています。
日本の愛護法は「遺棄犬を減らす」保護対策だけを取上げていますが、愛護法は、動物福祉が本来の目的では?犬の「生き物としての幸せ」を良く考えたら、飼育放棄による遺棄数が減る筈だと思います。