ドイツ 殺処分ゼロの理由

京子アルシャー

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今も昔もドイツの家庭動物の収容はティアハイム、昔はティアアジル(動物難民)と呼ばれて救済されていた。これらの施設では犬は殺されないから何年でも里親が現れるのを待つことができるのだが、それでも「飼い主の傍に居ることができず犬の幸せとはかけ離れた充分酷い状況」とドイツ人は言う。

ときどき、日本の人から「ドイツでの犬猫の殺処分数はどのくらいですか?」と聞かれることがある。多くの場合ドイツの動物保護状況を殺処分数で比較したいらしい。

「ドイツには日本のような『殺処分』はありません」と答えると、誰もが驚く。

「じゃあ、いつ頃から殺処分場はないのですか?」「ドイツにはずっと殺処分場はありませんよ」、さらに皆驚く。

なぜ、ドイツに殺処分場が存在しないのか、そのワケをお話しよう。

ドイツに最初の動物保護団体が創立されたのが1837年、シュトゥットガルトでのことだった。当時動物保護に強い思い入れを示していたクリスチャン・アダム・ダン牧師の死後、友人アルバート・クナップ牧師が遺志を受け継いで、聖書の教えを元に団体「Tierschutzverein Stuttgart」を創立したのが始まりである。その後1841年にベルリンでも馬車馬の扱いに見かねたプロイセン国の役人 C.J.ゲルラッハが「Verein gegen Tierquälerei」(現在のティアハイム・ベルリンの前身)を創立し、動物保護の運動は瞬く間に国内に広がり1871年には200もの動物保護団体が存在していた。

ドイツの動物保護に関する法律はプロイセンの時代から刑法の一部として定められていたが、「動物保護法」として独立・制定されたのが1933年、ナチス時代のことであった。

これだけを聞くと「ナチスはユダヤ人よりも動物を大事にしたのか」と思いがちだが、そうではなくあくまでも当時の右翼票を得るためという政治的な目的で導入されたのだった。

しかし法律は法律、ナチス政権が崩れた後もこの法律は生きつづけ、近隣の人々に捕獲された野良犬や持ち込まれた犬達は地域のティアハイムへと収容され、そこで14日間の検疫として隔離・観察されたのちに、狂犬病やジステンパーなどの伝染病の兆候あるいは発症を示した犬は個別で安楽死させられ、疑いのかからなかった犬は仲介に出された。

70年代を過ぎる頃には家庭犬へのワクチンが普及したのと同時に野良犬の数も激減し、ティアハイムに設けてあった検疫室は次第に必要なくなったわけだが、こういった経緯があってドイツには過去にも現在にも日本のような複数頭を同時に殺す「殺処分場」は存在しない。

このような話をすると時々「アウシュビッツ」を例に挙げ皮肉る人もいるが、ナチス時代の非人道的なユダヤ人迫害の歴史を持つドイツは(いや、むしろ酷い歴史を持つ国だからこそ)、例え犬猫にだって「大量殺処分」という行為を繰り返してはいけないというドイツなりの過去への強い反省を持って汚名を返上しようとしているようにも見える。世代を超え、時が経つうちにドイツ社会は暴力に対して敏感になっていった。

現在ではドイツ全国に700もの動物保護団体が存在し、それぞれ Deutscher Tierschutzbund e.V. を親団体として傘下団体同士相互協力のネットワークを築いている。

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傷付いた犬も、疾患を抱えた犬も、治療によって生活に大きな支障なく生きてゆけるのならば治療続行を条件に里親が募集される。

さて、現在ドイツの動物保護法では動物の殺行為について以下のように明確に定められている。

§4(1)Ein Wirbeltier darf nur unter Betäubung oder sonst, soweit nach den gegebenen Umständen zumutbar, nur unter Vermeidung von Schmerzen getötet werden.

(脊椎動物は麻酔下においてのみあるいは状況により痛みを回避することでのみやむを得ず殺されることとする)

この法律に則り、犬や猫を殺すにはまず獣医学的所見という正当な理由が必要である。現実的な例を挙げると、ティアハイムに収容された犬や猫を一人の獣医師が不治の病と診断のうえ安楽死を決定したとすると、安楽死させられた犬や猫の死体は大学の病理検査に送られ、そこで安楽死を決定した獣医師と同じ病理結果を得られなければ正統な理由なく動物を殺したということで起訴の対象となる。また例え不治の病だとしても酷い痛みを伴わず投薬など治療を継続することで生活に支障がないとされる動物は安楽死の対象にはならないため仲介に出される。収容日数によって殺されることは決してない。

別の例では「人を噛む凶暴な犬」という理由で殺処分を要求された犬には、犬の行動療法の専門家の見解をも要求され、その場ですぐに殺されるということがない。噛み癖のある犬の背景を専門家が見て、それが軌道修正可能なものかどうかを判断し、修正可能な犬の行動ならば殺さず時間をかけてでもリハビリしてその犬に普通の犬の暮らしを与えることができるように試みる。

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大型で扱いにくい犬種でもいつかはそれを愛しいと思う里親に出会える。それまで生きるチャンスを与えてやることができれば、いつかはきっとやってくる。

それでも、やむを得ず動物を殺す際はかならず安楽死でなくてはならない。現在ドイツの動物保護法から読み取ると安楽死とは「痛みと苦しみを伴わない死」のことであり、家畜の堵殺のみならず犬の場合も麻酔薬を用い痛みと苦しみを回避することでのみ殺すことが許される。

ちなみに日本でも『動物の殺処分方法に関する指針』で「その動物に苦痛を与えない方法によるよう努める」とあるものの、現在多くの殺処分場で行われているガス室での二酸化炭素による「麻酔」はかかるまで早くて1-2分。いくら二酸化炭素が麻酔効果を持っていても、麻酔効果が現れるまでに痛みや苦しみを伴うのでは意味がない。人間にとっては短いほんの1-2分かもしれないが、狭い金属製の檻に閉じ込められる時点からだんだんと酸素が減ることによる窒息感を経て麻酔効果が現れるまでの時間に犬が受ける苦しみを考えると、とても安楽死からは程遠い現実である。

そしてドイツでは犬猫を安楽死させるには獣医学的所見を中心とした第三者に証明できる正当な理由が必要であるということと同時に、安楽死を決定する獣医師には動物保護に則ったそれなりの知識と経験が求められる。ただ「頭数が多くて仲介が難しいから」というのは動物保護の視点では正当な理由にはならない。

もちろんそのお陰でどこのティアハイムも多くの犬猫を抱えている現状だ。しかしどこのティアハイムも仲介率は90%以上を保っている。残りの10%は里親が見つからずにティアハイムに長居しているか病気や老衰で死んでゆく動物達で、犬の繁殖管理が厳しく行われペットショップでの仔犬の生体販売がないため、一般市民のティアハイムの利用率はきわめて高く、犬を飼いたいと思ったらまずティアハイムに足を運ぶのがドイツでは普通だ。

はなっから「殺処分ありき」と考えるといかに効率よく処分を行うかばかりが検討され、殺される命についての検討がなされにくくなる。しかし収容動物の「処分」の仕方はなにも殺すことに限らないはずで「殺処分は果たして必要か?」と、回避策を模索することで状況は変わってくる。現在ドイツの殺処分ゼロは国民全体の意識が支えとなって存在しているのだ。

ドイツ人に日本の犬猫の殺処分数の話をすると、これまた誰もが驚く。海外では日本はタイと並んで「優しく穏やかな仏教国」というイメージがあるだけにとても信じ難いらしい。日本のイメージダウンに繋がるからそんなことは言わないほうがいいのだろうが、かといって嘘はつけないから早く状況が改善されるのを願うばかりである。

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