ジャックラッセルテリア飼育奮闘記 (8) - 犬の服従性を高めるには?

史嶋桂

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命令に従ってベンチの上でおとなしくフセて待機しているマイロ。とんでもないお転婆犬でも、こうしていると少しは賢そうに見える。伏せる姿勢は犬にとって、服従性の高い姿勢なので、この命令に確実に従うように訓練できれば、飼い主に対する犬の服従性も自然に高める事ができる。ジャックラッセルテリアの様にハイパーな犬には、是非教えておきたい訓練だ。

今回は、犬の服従性を高め、犬を落ち着かせやすくする、フセの訓練について考えて見ます。

犬は社会性の高い肉食動物であるオオカミの子孫です。オオカミから社会性を引き継いだイヌは、オオカミの行動の多くをそのまま踏襲し、群れの個体同士でサインを出し合い、意思の疎通を図ったり、上下関係を確認しあったりします。イヌもオオカミも挨拶行動によって、お互いに仲間である事を確認しあい、上下関係を守る事で、効率良く狩りを行い、牙と言う強力な武器を持つ身内同士で、不必要に争わずに済むように行動を進化させた動物です。

さらにイヌは人間の家畜になる過程で、同族だけでなく、人間や他の家畜にも社会化する様になり、異種である人間とも一定以上のコミュニケーションを取れる様になり現在に至っています。興味深いのは、多くの犬が視線の高さ、つまり目の高さによって、相手の大きさや自分との上下関係を測ろうとする事です。この視線の高さは親子であれば、親の方が子より高い事が多いので、視線の高さが異なる個体が出会った時、視線の高い個体がより年長の上位者となり、視線が低い個体が下位者となる可能性が高くなります。

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マイロとジャンの散歩のルートにあるガレージに老シェパードが放し飼いになっている。彼は番犬も自分の仕事と考えているらしく、前を通る人にも犬にもよく吠える。マイロとジャンにも当然吠えかかるが、彼らは大きな犬が吠えても全く動じる事無く、自分から近づいて対等の挨拶しようとするので、老シェパードはとまどった様な顔で僕を見上げてくる。この様にジャックラッセルテリアは、通常の犬の階梯を無視する事があるので、相互の犬の社会化が不十分だと喧嘩の原因になる可能性が高いと思う。

イヌでは大きな犬種の方が小さな犬種より、自然に上位者と言う位置づけになりやすいのですが、ここでジャックラッセルテリアは例外的な一面を見せます。彼らの行動を見ていると、あまり視線の高さによって、相手を上とか強いとか感じていない様なのです。その結果、大型犬から見たジャックラッセルテリアは小さな子犬のサイズなのに、下位者の挨拶をしない変な犬、擬人的にみれば生意気な奴と、とられやすい様なのです。これが原因となって、社会化が不十分なジャックラッセルテリアは、しばしば他の犬とトラブルを起こします。

犬はさらに、人間に対しても、視線の高さの差による判断を行います。人間の頭の位置は犬から見たらかなり高いので、人間に十分社会化された犬の場合、人間と犬の視線の高さの大きな差から、人間を「すごく背の高い同族」」とみなし、自然と服従する気分になりやすいようです。反対に人間が姿勢を低くすると、犬は安心して寄って来ます。これも犬が人間に対して視線の高さと力関係を関連づけて認識している傍証になります。つまり人間が犬を従わせようとする時、人間が立ったまま命令をくだせば、相対的に高い視線によって服従させやすくなり、逆におびえている犬を安心させたければ、人間が姿勢を低くすれば良い事になります。

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低い塀の上でフセの訓練をうけるジャン。元々服従性の高い犬なら、この様に犬が少し緊張し、飼い主の命令に注目しやすい高さのある場所で、声符と視符と報償を使って訓練するだけで、簡単にフセを教える事ができる。

同じように上位の犬が、自ら伏せる事で、視線の高さを下げ、威圧感を減らす事で子犬や小さい犬を安心させようとする事があります。社会化が不十分で、他の犬を怖がる様な子犬でも、おとなしく伏せている犬が相手だと、安心して寄って来て、口元を舐めて甘える仕草を見せる様になります。さらに同じくらいの体格の犬同士が出会った場合、相対的に社会的地位の低い犬は、自ら姿勢を低くして、視線を高く保ち続ける相手に対して、下から近づいて口元を舐め、長上者に対する挨拶を行います。これは犬が姿勢を下げる事で、視線の高さも下げ、相互のコミュニケーションを円滑にしている行為にあたるでしょう。

こうした観察で共通する事は、犬は視線の高さを下げる事によって、相手に対して敵意が無いことを示したり、服従の意志を示したり、相手を安心させたりしていると言う事です。

この犬の習慣を利用して、ジャックラッセルテリアの様に、他の犬とトラブルを起こしやすい犬種でも、視線が低いまま安定する姿勢、つまり伏せる姿勢を取らせる訓練を行うと、トラブルを回避し、飼い主に対する服従性も高める事が出来ます。たとえばフセの訓練にいつでも従うように訓練すると、暴れ騒ぐ犬を瞬時に静止させたり、他の犬と喧嘩しそうになるのを止めたり、落ち着きの無い犬を静かにさせる事もできます。これはフセの姿勢そのものが、高い服従性を示す姿勢である事とも関係していると思われます。

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代々木公園のドッグランで、他の犬との取っ組み合い遊びに興奮しすぎたジャンを、家内が呼び戻し、高さのある切り株の上でフセ・マテを命じている。この様に、暴れ騒ぐ犬も、呼び戻しとフセに従う犬なら、短時間に落ち着かせ、トラブルを回避する事ができる。

フセの訓練は、性質が穏やかな犬なら簡単に教える事が出来ます。最初はご褒美を手に持ったまま、犬が少し緊張するくらいの高さがある場所に載せ、犬とアイコンタクトして、人差し指を立ててスワレを命じ、その状態から、犬の鼻面をかすめるようにして指をゆっくり下げて行きます。犬はご褒美に注目して訓練手の人差し指を鼻面で追い、ゆっくりとフセの姿勢になります。この訓練は台の上の様な場所で始めると効果的です。犬がご褒美ほしさに前に出ようとすると、台から落ちてしまうので、人差し指の位置を調節するだけで、犬を的確にフセの姿勢に移行させやすいからです。犬が中々フセない場合は、前足をそっと持ってフセの姿勢に導いたり、背中を押し下げたりする補助動作も有効です。

一方フセの訓練など全く受け入れる気がなかった子犬時代のマイロの様に例外的に強気の犬もいます。マイロはフセの初期訓練のさい、補助動作にも従わず、餌によるリードも通用しなかったので、スワレを教えた時と同じように、フセも関連づけ学習で教えようとしました。僕はマイロが自主的にフセの姿勢になる条件を探して見ました。

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マイロは爆竹やシャッターの開閉音はもとより、目の前で大型犬に吠えられても全く動じない犬だが、なぜか近所の公園の遊具の橋の上は怖くて足がすくむらしい。僕はマイロの苦手な場所を見つけたことで、他の場所では全くできなかったフセの訓練を始める事ができた。今でも橋の上は鬼門らしく、なんとなくそわそわしているマイロ。

ところがマイロは外にいても室内にいても、常に立って動き回っている様な活発な子犬で、おとなしく伏せている姿を見せたことがありませんでした。これでは、たまたまフセの姿勢を取った時にフセと命じる関連付け学習による訓練が出来ません。そこで家族全員のデジカメ画像から1,000枚くらいの写真を調べ、唯一公園の遊具のスノコ状の橋の上なら、マイロが自分から伏せるのがわかりました。その場所はスノコの隙間から下が透けて見えるので、マイロも高さが怖くて脚がすくんだのかも知れません。僕はマイロが遊具の橋の高さを怖がる事を利用し、最初はこの場所でフセの訓練を始め、次は低い塀の上、さらにベンチの上と徐々に高さを下げ、最後は普通の地面でもフセに従わせる事が出来るようになりました。それでもマイロが命令に従っていつでもフセが出来るようになるまで、半年くらいの訓練期間が必要でした・・・

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ジャンを訓練したのと同じ低い塀の上で、訓練中伏せたままくつろぐマイロ。彼女の感覚では、自分で容易に飛び降りる事ができる場所なら、狭い塀の上でも苦にならない様だ。もしあなたの犬のフセの訓練がうまく行かない時は、少し高さのある台の上で訓練を始めた方がうまくいくと思う。

この様にフセの様な服従を意味する姿勢の訓練に中々従わない犬もいますが、飼い主が犬の性格をきちんと把握して、その犬に合った条件を整えれば、たいていの犬の訓練は可能だと思います。ただしジャックラッセルテリアは、犬ごとに多様な個性を持つため、全ての犬に共通して使える手法を見つけるのは難しいかも知れません。つまり訓練を成功させる鍵を見つける事が出来るのは、他ならぬ飼い主さんご自身なのです。これがジャックラッセルテリアの訓練を難しいものにし、人任せにしにくい理由の一つだと思います。

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