使うリスク・使わないリスク、犬の駆虫剤との付き合い方を考える (5)

京子アルシャー

コメント(14)

Mosquito bite

[Photo by James Jordan]

蚊の活動シーズンに伴い押し寄せてくるフィラリア症の危険、それを拭い去ってくれるのがフィラリア駆虫薬である。

フィラリアの駆虫薬は体内に入ってきたミクロフィラリアを殺す薬であって、けっして「これを飲ませていれば蚊に食われない」というものではないので、世間一般に「予防薬」と呼ばれるのはそもそも間違っている。

あくまでも体の中に入ってきたミクロフィラリアを殺す駆虫薬であり、定期的に投与することで体をリセットするといえば分かりやすいだろう。ミクロフィラリアが入ってきては殺し、また入ってきては殺す、ということを薬を使って繰り返すのである。

Ivermectin

[Photo by sientelasalud]

イベルメクチンの分子モデル。

イベルメクチンとミルべマイシン

現在日本でフィラリア駆虫薬として多く出回っているのはイベルメクチンとミルベマイシン(モキシデクチン)で、これらはただフィラリアに対してだけ効くと言うのではなく、他の線虫類(犬回虫など)やデモデックス症(毛包虫症)、ミミヒゼンダニなどの外部寄生虫にも駆虫効果を示す。

イベルメクチンとミルべマイシンはいずれも元々はマクロライド類という医薬品成分の仲間なので、農薬として指定されているノミ・ダニ予防の駆虫剤成分とはカテゴリーが異なる。

錠剤を投与後4-8時間で体内濃度が最大に達し駆虫効果を発揮するイベルメクチン、その後は持ち前の脂質によく溶ける性質により特に脂肪組織や肝臓に分配され、そして一部代謝されて時間をかけて便と共に排出される。なにしろ親油性だからなかなか体から出て行きづらい。

イベルメクチンといえば以前「MDR-1遺伝子というヤツ」という記事で取り上げたとおり、犬によっては先天的にこの薬剤に対するガードが欠けている事から神経障害などの中毒症状が現れることがある。

フィラリア駆虫薬としてイベルメクチンを投与し、しばらくするとふらつきや元気消失、酷くなると昏睡や死にも至ることが見られるので、もしもこのような症状が愛犬にあわられた場合はすぐにでもかかりつけの獣医さんに診てもらいイベルメクチンの投与を止めるのはもちろんのこと、今後のために一度 MDR-1遺伝子の検査をお願いすることをお勧めしたい。

ドイツとスイスではこの副作用とそしてフィラリアの北限より北に位置する地理的要因からイベルメクチンは動物医薬品としては犬用には認可されておらず、かわりにもっと安全性が高いとされるミルべマイシンがフィラリアの駆虫に用いられている。

とはいえ、食欲不振や嘔吐、下痢症状などは一般的な副作用のうちとされていることを付け加えておこう。これはイベルメクチンも同様、MDR-1遺伝子が正常な犬でもこれらの一般的な副作用は付き物である。

Heartworms-Dirofilaria immitis

[Photo by Zachary Durland]

犬の心臓とそれに寄生したフィラリア成虫の標本。右の長いのがメス、左の少し短めなのがオス。寄生するフィラリアの数は多くても20匹を超えることはないというが、それでもこんなに長いのであれば心臓の機能は充分に阻害される。

フィラリア成虫(マクロフィラリア)の駆虫

心臓に寄生したフィラリア成虫の駆除はこれまで外科手術あるいはジエチルカルバマジンという薬に頼っていた。しかしいずれもリスクが高くまたジエチルカルバマジンは副作用が多かったせいかいつの間にか販売中止になり、現在ではメラルサミンという薬に取って代わって治療は行われるようになった。

寄生しているフィラリア成虫はメスでは30cmにもなるため、このようなのが数匹血管の中で死ぬと血栓として詰まり体は強いショック症状を起こす。それを防ぐために血栓予防薬などを併用し数週間にわたり安静を要することからフィラリア成虫を駆虫することはあまり簡単な治療とは言えず、ミクロフィラリアの駆虫に比べ今ひとつ知名度が低い状況にある。

Dirofilaria immitis

[Photo by Hasti Sab]

血液中のミクロフィラリア(紫色のひも状の物体)。周辺の赤い球状のものは赤血球。これが30cmにまで成長しようとは誰が想像できるか?

フィラリア対策のまとめ

さてさて、前回と今回でフィラリアについていろいろ書いてみたがここでもう一度まとめてみよう。

フィラリア症に罹るには以下のような段階がある。

  1. 蚊の体内で感染可能な幼虫に成長したミクロフィラリアは蚊の吸血行為により犬の体内に入りこむ。
  2. 入ってきたミクロフィラリアを犬は免疫抗体で攻撃し続け、免疫抗体の攻撃を受けながらミクロフィラリアは最低70日かけて最終永住地である心臓を目指す。
  3. 免疫抗体に負けず生き残ったミクロフィラリアは心臓に辿り着き、成虫に成長し長期で居座る結果(=フィラリア症)となる。

成虫が心臓に寄生しているのに気づかずそのまま放置すると他の犬へのフィラリア伝播の根源となるうえ、いつしか成虫が死んだときに犬の体自身えらい迷惑を被ることになる。だからフィラリア成虫の寄生を発見し、治療としてでっかいフィラリア成虫を殺してリスクを受けるよりも、感染後間もない小さなミクロフィラリアの段階で殺す方が体にとっても負担は少ないと考えるのは当然だろう。

というわけで毎月投与が奨められている駆虫薬は2の「体内で移動中の生き残ったミクロフィラリア」を殺すためで、しかも駆虫薬はこのミクロフィラリアの段階でしか効かないから、例えばうっかり忘れて70日を越えて薬を投与したとき最悪の場合には残念ながら駆虫時期を逃してしまうということもありうる。

もうひとつの問題は、この駆虫作業はいたちごっこであるということ。いくら駆虫してもその後蚊に食われてミクロフィラリアに感染することでまたふりだしに戻るわけであるから、飼い主の気もなかなか落ち着く時がない。

050509_dirofilaria5

蚊取り線香は除虫菊を使った昔ながらの殺虫剤。煙の吸引にはくれぐれもご注意を。

しかし蚊に食われるチャンスを少なくすることにより体内に入ってくるミクロフィラリアの数を減らすことができるのだから、まずは蚊除け対策がフィラリア対策の第一歩となる。

街の中で暮らし室内飼いの場合には室内への蚊の侵入を防ぐため目の細かい網戸を取り付けるとか、普段は蚊の活動的な時間を避けて散歩に出掛けるとか、自分たちへの蚊除けと同じ工夫がそれなりにある。ただ外飼いの場合はこの蚊除け対策に仕方がない部分がある。

ただ闇雲に駆虫するのもいいけれど、まずは自宅周辺の蚊の出現頻度をよく観察してみよう。そして周辺地域のフィラリア症発生状況なども情報として仕入れることができれば、なお有効な判断基準となるだろう。

アウトドアなどの外出時には蚊の襲撃を受けるチャンスが増え、それに伴い侵入してくるミクロフィラリアの数も多くなり体内で生き残る確立も増すため、帰宅した後にはミクロフィラリアが成虫になる前に駆虫をすることを忘れずにいたい。

【関連記事】
使うリスク・使わないリスク、犬の駆虫剤との付き合い方を考える (1)
使うリスク・使わないリスク、犬の駆虫剤との付き合い方を考える (2)
使うリスク・使わないリスク、犬の駆虫剤との付き合い方を考える (3)
使うリスク・使わないリスク、犬の駆虫剤との付き合い方を考える (4)
---
MDR-1遺伝子というやつ (1)
MDR-1遺伝子というやつ (2)
MDR-1遺伝子というやつ (3)

 

GREEN DOGがお勧めする商品

フード選びに迷ったら。厳選お試しセット
累計注文30,000食突破(2016年7月現在)
フード選びに迷ったら。厳選お試しセット
EPA・DHA豊富!皮膚被毛の健康をサポート
EPA・DHA豊富!皮膚被毛の健康をサポート
ワイルドアラスカンサーモンオイル
獣医師も注目する「お腹の強力サポーター」
獣医師も注目する「お腹の強力サポーター」
バランスフローラ
諦めないで!歯磨き嫌いさんにはコレ
諦めないで!歯磨き嫌いさんにはコレ
ペット用歯磨きジェル 歯にマヌカ
食べきりサイズのおやつが5種類試せる!
食べきりサイズのおやつが5種類試せる!
WITH GREEN DOG ミニサイズおやつセット

dog actually ライター書籍 PickUp

「犬と遊ぶ」 レッスン テクニック: 見落としがちな「犬との遊び」は最大のトレーニング法だった! (世界のドッグスペシャリスト)
「犬と遊ぶ」 レッスン テクニック: 見落としがちな「犬との遊び」は最大のトレー… イェシカ・オーベリー (著), 藤田 りか子 (編集, 写真) 誠文堂新光社 (2015/8/20)
最新 世界の犬種大図鑑: 原産国に受け継がれた420犬種の姿形
最新 世界の犬種大図鑑: 原産国に受け継がれた420犬種の姿形 藤田 りか子 (著), リネー・ヴィレス (著, その他)
誠文堂新光社 (2015/2/24)
ドッグ・トレーナーに必要な「子犬レッスン」テクニック: 子犬の気質を読みながら、犬の語学と社会化を適切に学ばせる (犬の行動シミュレーションガイド) (犬の行動シミュレーション・ガイド)
ドッグ・トレーナーに必要な「子犬レッスン」テクニック: 子犬の気質を読みながら… ヴィベケ リーセ (著), 藤田 りか子 (編集), Vibeke Sch. Reese (原著)
誠文堂新光社 (2014/8/20)
よくわかる 犬の遺伝学: 健全性から毛色まで、知って役立つ遺伝の法則
よくわかる 犬の遺伝学: 健全性から毛色まで、知って役立つ遺伝の法則 尾形 聡子 (編集)
誠文堂新光社 (2014/1/20)
今日からチャレンジ! 楽しいローフードのすすめ
今日からチャレンジ! 楽しいローフードのすすめ カリーナ・ベス・マクドナルド (著), 森 ひとみ (翻訳), 尾形 聡子 (翻訳)
エー・ディー・サマーズ (2014/2/28)
DVDBOOK 犬はしぐさで会話する(1): ヴィベケ・リーセの犬のボディランゲージ解説 ()
DVDBOOK 犬はしぐさで会話する(1): ヴィベケ・リーセの犬のボディランゲージ解説 ヴィベケ・リーセ (著), 藤田 りか子 (編集)
誠文堂新光社 (2013/12/10)
いぬ語会話帖: 犬の言葉をシンプルに理解するためのフォトブック
いぬ語会話帖: 犬の言葉をシンプルに理解するためのフォトブック ヴィベケ・リーセ (著)
誠文堂新光社 (2014/7/10)
ドッグ・トレーナーに必要な「深読み・先読み」テクニック: 犬の行動シミュレーション・ガイド
ドッグ・トレーナーに必要な「深読み・先読み」テクニック: 犬の行動シミュレーション・ガイド ヴィベケ・S. リーセ (著), 藤田 りか子 (編集, 写真)
誠文堂新光社 (2011/8/19)
ドッグ・トレーナーに必要な「複数の犬を同時に扱う」テクニック: 犬の群れとリーダーシップについての深まる謎を解く! (犬の行動シミュレーションガイド)
ドッグ・トレーナーに必要な「複数の犬を同時に扱う」テクニック: 犬の群れとリーダーシップについての深まる謎を解く!… ヴィベケ・リーセ (著), 藤田 りか子 (著)
誠文堂新光社 (2013/4/19)
ドッグ・トレーナーに必要な 「犬に信頼される」テクニック: 「深読み・先読み」の第2弾、問題行動はこれで直せる! (犬の行動シミュレーションガイド)
ドッグ・トレーナーに必要な 「犬に信頼される」テクニック: 「深読み・先読み」の第2弾、問題行動はこれで直せる! … ヴィベケ・リーセ (著), 藤田 りか子 (著)
誠文堂新光社 (2012/11/19)

もっと見る